病院に行き、家に戻ったら竹川郁雄氏より、新著『いじめ現象の再検討』が届いていた。前著『いじめと不登校の社会学』に続き、いじめについて焦点を絞り、研究をまとめられたものである。竹川氏は、「いじめの四層構造モデル」で有名な森田洋司氏の門下である。竹川氏や、学部同門の徳永勇氏などから、調査による実証を重んじられる森田氏の厳格な教育ぶりについては、耳にしてきた。他方、社会集団論に焦点をおき、相互行為、社会規範などと関わるミクロ社会学の理論的成果を、あくまで実証研究に応用可能なかたちで学ぶという姿勢も門下の方々に共通する特徴であると拝察される。
そんな由緒正しい社会学者をなぜおまえのようなものが知っているのかと、怪訝に思われる方もいらっしゃるだろう。実は竹川氏は、大学の寮の後輩なのである(卒業はいっしょw)。小平キャンパスの教養課程時代は両の同じフロアというか、二つほどとなりの部屋に居住していた。学部では、古賀英三郎先生のゼミに所属されていた。マルクス、ウェーバーなどの社会科学的な視点について、理論的に学ばれたはずである。ある時関西社会学会で、似た人がいるなぁと思い話しかけたら、はたして竹川氏でびっくりした。以来ご交流いただいている。集中講義で愛媛大学に呼んでいただき、亡くなった桐田克利先生と歓待いただいたのは懐かしい思い出である。と同時に、当時は睡眠時無呼吸症が最悪の状態で、授業中に突然眠りそうになったり酷い状態で、学生さんたちにご迷惑をかけてしまった。この場を借りて再度お詫びしておきたいと思う。
さて、著者によれば、本書は「現代日本の学校で発生しているいじめの現象について、集団、社会規範、価値志向等の視点から考えた論文集である」という。本書の前半は、いじめを直接考察対象として、調査データやケース例などによりながら、いじめの背景的要因をさぐっている。いじめる側、いじめられる側、支援する側などについて、実証的な研究成果がまとめられている。本書の後半では、社会規範と集団という観点から、いじめ現象について理論的な分析を行っている。そこに概論的な内容がかなり体系的に描きこまれていることは、講述によって話し込まれた内容であろうなあと拝察した。まだめくった程度だが、目次を書き抜いておく。
- 作者: 竹川郁雄
- 出版社/メーカー: 法律文化社
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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竹川郁雄『いじめ現象の再検討−−日常社会規範と集団の視点』(法律文化社)目次
まえがき
第Ⅰ編 いじめを考える
第1章 いじめ問題のむずかしさ
はじめに
1 いじめの背景的要因
2 いじめ判断における苦痛と正当性
3 教室などの場面でいじめを確定する際の問題
第2章 いじめ加害と常識的価値志向
はじめに
1 いじめ加害の実態
2 攻撃性と日本のいじめ加害
3 いじめを生む優位−劣位関係と常識的価値志向
おわりに
第3章 いじめと児童生徒の集団形成
はじめに
1 集団の視点からのいじめ分類
2 集団が関与するいじめ
3 仲間集団内の隷属的いじめ
おわりに
第4章 不登校、摂食障害、集団内いじめと適応過剰
はじめに
1 適応過剰による逸脱現象
2 適応過剰と「日本文化論」
3 社会規範への同調と逸脱
おわりに
第5章 いじめとしつけを人々はどのようにとらえているか
−−松山市民への調査より
はじめに
1 調査の実施について
2 一般の人々のいじめに関する調査
3 他人が子供を叱ることについて
おわりに
第6章 いじめなど問題を抱えた生徒の支援
−−教育社会学の視点
はじめに
1 問題を抱えた生徒を支援する対象領域
2 対象領域におけるいじめ問題と支援
3 不登校問題と「心のノート」に見る支援のあり方
おわりに
第Ⅱ編 日常社会規範と集団を考える
第7章 日常社会規範を考える
はじめに
1 社会規範の模範的側面と拘束的側面
2 社会的場面の日常社会規範
3 社会規範とサンクション
おわりに
第8章 集団内で作られるルールと恥意識を考える
はじめに
1 状況適合性ルールの形成
2 罪と恥の意識
3 羞恥感情と状況適合性ルール
第9章 自己愛と集団−−準拠集団の視点から
はじめに
1 準拠集団と所属集団
2 自己愛と誇大自己
3 準拠集団と誇大自己
4 誇大自己の有為イメージの縮小といじめ
おわりに
第10章 集団分析の視点−−補論
はじめに
1 集団の5つの側面
2 集団状況の変化
3 集団分析の有効性
枠組としての集団と規範に関する論述は、ひとつの体系的概説として、興味深いし、姫岡勤『社会学』、田野崎昭夫『現代の社会集団』等と併読してみると、いじめを対象とする場合の集団論の解析力というものが浮かび上がってくる。日本文化論と関連づけた点は、ひとつの工夫であり、土井義隆氏や正村俊之氏らの著作と読み比べてみたい気になる。社会理論を用いて、実証研究に向かおうとする人には有効な論述が随所に見られるし、卒業論文と取り組む場合に大きな手がかりを与えてくれる著作であるように思われる。授業の空き時間に大学院志望の学生とギディンズ『社会学』の読書会のようなものをしていた竹川氏の姿が思い浮かぶ。