めんちかつ

 昔よく遊んだ原っぱの近くに市場があって、そこのフライ屋でコロッケを食うのが、近所のガキどもの数少ない楽しみの一つだった。最初は一個五円で、高度成長とともに値上がりしていったが、50円とかすげぇ安かった。おやぢの自慢はいいラードを使っているということと、もうひとつはマッシュボテトなんて使っていないということだった。店=厨房でごまかしようがない。何十年もフライ一筋で、悪がき、近所のオフィス、プー太郎ご一行様などに熱烈な支持者があった。私のフライ味覚のフレームワークはそこでつくられた。だから、上品なカトレットみたいな類はあまり好きでなく、ころもが凶暴なまでにがりがりバリバリしていて、焦げかかったようなものが好きだ。ちょっと金があるとメンチやなんかを食った。メンチも、たまねぎとか多かったが、独特のセンスのよさがあって、香りというか、あの味はめったにその後出会うことはない。
 まあそんなこともあり、フライを売っているような店があると、フライ屋さんでも、肉屋さんでもどこでも買い食いをする。デパ地下などでも買い食いをよくした。ちゃんと包む、デパートなんだからというような店員だと興ざめで、チョコッと袋かなんかに入れてくれるだけだと嬉しいものがある。コロッケがカレー味だと非常にむかつく。ごまかしてんじゃないかと思うからだ。そうじゃないのかもしれないけど、フライ屋のおやじが「うちはカレー粉なんか使わない」とゆっていたのを思い出すことが大きい。今でもうちの近くには立ち飲みのフライ屋があって、ギャンブルタウンに集う労働者に愛されている。まあしかしそういう形式だと、大阪のフライ屋というか、串カツ屋のほうが一日の長があるかもしれない。梅田のとまり木という店によく逝く。地下街で、よそ者にも入りやすいからだ。ディープ大阪はやっぱ敷居が高い。
 最近は揚げ物は控えている。しかし、美味そうなものがあるとついつい食いたくなる。先日もアドマチックでやっていた、坂本屋@にしおぎのめんちを食った。これはその日にブログに書いた。カツどんの美味い店。よく見ると隣は根性の座ったカンジのマニアックな肉屋さん。これなら美味いはずだよなと思う店だ。たしかにあれも美味いけど、ぼくにとってソウルフルではない。美味すぎると言ってもよいかなぁ。美味さとソウルフルは両立しないと思っていた。しかしである。昨日実家に帰ってきて、今日のお昼に尾島精肉店のメンチを買ってきたというので食った。チャーシューが美味いということは、前にゆったけどメンチも美味かった。ともかく牛肉の味がする。そういう意味では、吉祥寺の松坂牛のメンチもそうなんだが、あれは昔しこたま下腹部を打って腫れあがったものを想起させて痛い。あまりに痛い。ところが尾島のメンチは、ホタテフライくらいの大きさで、しかもころもは私の好みに近いものがあるのだ。普遍的に美味いかどうかわかんないけど、上を読んでこれだ!と思ったら、絶対美味いと思う。たとえまずくてもチャーシューを買っていけば、満足できるはずだ。チャーシューも頼めば部位を選べるはず。うちは、健康のため脂身のないところを頼んでいるが、美味しいのはなんといっても三枚肉だ。ブタバラですね。焼きたての熱いところを、一番端っこのたれのしみた焦げたところを喰うと、鼻に香料と肉の美味しい香りが突き抜け、脳内麻薬炸裂ってかんじですよ。個人商店と仲良くなるとそういうことを楽しめる。そういう意味でぼくは実はチョイロハかもしれない。w