萬里の餃子復活

 東急みなとみらい線ができてからというもの桜木町駅の利用は、JR線または市営地下鉄を利用するときに限られた。昨日は夕食のおかずに萬里で餃子を買って帰るということになっていたので、JRで桜木町駅まで行った。近代的な地下道から柳通りに向かう。野毛の飲食店街は、いわゆる雑居ビルの類はなく、それぞれに一家を構えたというかんじの居酒屋がたちならんで、独特の風情である。日本酒とつまみのにおいが混じったような街の香りがすると、二週間ぶりであってもなつかしい気持ちになる。「毛沢東もびっくり」「女性に大人気チンチンメン」「元祖原子爆弾」などのコピーですっかり名店になってしまった三陽は、店の前にテーブルみたいなコーナーまでしつらえ、ハイブリッドなストリートが好きみたいな客でにぎわっている。原爆とは摩り下ろしたニンニクをメンにぶち込むだけのことである。開店したばかりであまり客がいなかったことを知っているんだよなぁとか思うと、ちょっと自慢な気持ちになる。
 その向かいが萬里である。おやぢは、この辺の街づくりとかにけっこう熱心で、風呂屋の講演会とかいろんなものの企画に参加しているということを、平岡正明の著作で読んだ。店は昔のまんまで小汚い。しかし、この本店は二階席で宴会もでき、昨日も客でにぎわっていた。餃子を注文してカウンターで待つ。ちょっととっぽいカップルが会計をしていた。アルバイトの留学生みたいなのに、「ここ何年?」と聞いている。学生は怪訝そうに「私ですか?」と聞く。あんちゃんは「この店よ」と言う。学生「50年以上」。客「あちゃー、そうなんだ。めちゃめちゃんまかったよ」。学生はニコッと笑った。厨房のなかで店を仕切っている料理長はむすっとしたままだ。彼は、実はうちの弟の同級生なのであった。最初は追い回しみたいだったのが、今は店のトップになっている。彼も30年以上のキャリアになるはずである。すごいもんだ。この業界だけは、簡易労働化できないところがあるよなぁと思い、うれしい気持ちになった。もちろん挨拶などしない。弟が一緒でも、目配せをするか、せいぜい「おう」といったくらいなのである。それが職人風というものであろう。
 餃子を買い、かえって包みを開ける。さすがに経木は復活していないが、焼き方が元に戻っていた。ちょっと前は、餡は変わっていないものの、包み方もぞんざいになり、焼き方も油べたべたに変わってしまっていた。それが昨日は、包み方もちょっと熟達を必要とするものに変わり、そしてかりっと焼けて、独特のふっくら感がもちもち残存するというかたちになっていた。家のバカ親はよけいな講釈はたれることはなかったが、箸の運び方が明らかに違っていた。