武豊TV

 さっきまで寝ていた。みるつもりのなかった番組につきあっていたら、寝るのが五時すぎてしまったのである。競馬は、とっくの昔に足を洗ったつもりだったし、いくら面白そうな馬が出てきても、ふーんそんなもんかいという姿勢を崩さないできた。もちろん、時にはシーザリオ萌え、ディープインパクト萌えとテレビはみていたけど、それっきりのことだった。私は、場外馬券売り場から一分ほどのところで育った。汗くさい、泥臭い競馬にどっぷりつかってきた。すってんてんで路上で飲んだくれて寝ている椰子とか、10万馬券あてて仲間従えて風俗大盤振る舞いしている椰子とか、あるいは人間のくず状態で博打がなければ生きていかれない人たちのシャレにならないくらい切ない希望だとか、ディープ寺山なものに吐き気がしそうになりながら、涙と鼻汁でビョロビョロになりながらハイセイコーテンポイントに萌えていた椰子らのセンチメンタルにどっぷりつかっていた。だから、競馬場で競馬新聞丸めてオグリオグリと連呼しだしたのには、いささか面食らったし、ケッ馬鹿くせぇと思わなかったと言ったらウソになる。しかも、荘厳なる労働者たちまでもがいっしょになってオグリオグリとやっていることには、なんだよもまいらというカンジだった。私立の中学高校でて、大学どころか、院まで逝った人間が、そんなことを思うのは、頭だけ赤い丹頂鶴、口先だけが赤い十姉妹ってかんじだねと、院の先輩たちにいぢめられたのであるけれども。しかし、昨日は競馬の番組を見ていて、夜更かしをしてしまった。番組の名前は、武豊TV。フジの739でも月一しかやっていない番組である。番組紹介を引用しておく。

番組紹介

 日本競馬の熱いホースメンたちの中にあってその頂点に立つ男がいる、武豊である。誰もが認める天才、最高の栄誉ダービージョッキーに輝くこと4回、2年連続年間200勝達成。JRAに存在する記録をことごとく史上最速で塗り替え続ける日本競馬史上最高のジョッキーである。そんな希代のジョッキー武豊初のレギュラー番組がフジテレビ739でスタート!天才武豊を通して競馬の本質・魅力に迫る。今まで競馬の外側からしか語られていなかったことを、当事者の騎手が語るという画期的な番組だ。

放送内容

(1)豊プレイバック
各開催ごとに武豊が騎乗したレースを中心に振り返る。各レースの勝負どころやポイントなど既存の競馬メディアでは解き明かすことの出来なかったレースの本質に武豊が自らレースを分析しながら迫っていく。番組ではサッカー解説のようにタッチペンを使用して武豊がレースの流れを詳しく解説。天才ジョッキー武豊だから感じることのできるレースのあやがわかりやすく語られる。


(2)豊メモリー
武豊の過去の思い出の騎乗馬を振り返る。


(3) 豊サロン
視聴者から寄せられた競馬に関する素朴な疑問に答えたり、ジョッキー仲間をゲストに呼んだぶっちゃけトークなど基本的には何でもありのコーナー。


 当番組は、基本的には各開催終了ごとに月1回ペースでレギュラー放送。武豊の競馬に対する考えの真髄に迫ることにより、今まで競馬の面白さに気づかなかった人は競馬が好きになるような、今までファンだった人はもっと競馬が好きになる番組である。
http://www.fujitv.co.jp/cs/program/7393_202.html

 地上波の最深海において、番組とって出しでやっていた。しゅつえん(こういう言葉を言う時についつい黒幕@SakuSakuになってしまったりする)は、武豊と、見栄晴。そして、若手騎手。サロンでは見栄晴栗東をたずね、調教師や騎手にインタビューしたりする。福永祐一が非常にナイスキャラで、「武さんは来てないの?」と聞く見栄晴に、「あの人は来てないッスよ。くるわけねージャンか。ナンバーワンジョッキーよ。ふだんは下のものがやってるの。来たってノラねぇよ。またさ、こられちゃうちらだって困るの。さばれなくなるぢゃんか」みたいなかんじ。わはははは。すげーぜ、祐一。で、まあ調教師の先生にインタビューしたり、ふだんはみられない栗東内部、馬最優先の道とか、武豊が来るとお茶してうだうだする、学会で言えば理事室みたいなところを紹介したりとか、実に立体的に競馬のことがわかる。
 しかし、やっぱプレイバックがあまりに秀逸であった。丁寧に一番最初の放送をとって出ししていて、見栄晴「勝ちレースを中心に?」武「負けて言い訳したいこともありますからね」。ふーんと思っていたけど、シーザリオディープインパクトのクラッシックを中心に、レース回顧。まずざっとみて、それからスローで振り返る。画面にペンで書き込める装置を使っていて、ここが空くとか、外側からこの椰子にふさがれたとか、そういうことなんかも詳細に振り返る。武と、福永と、もう一人ロンゲのジャニっぽいあんちゃんの騎手が、馬鹿面白いトークが展開される。特に福永は、合コン王コーシローと双璧とも言えるくらいのナイスキャラで、父を知るものはなんだこのちゃらちゃらしゃべる椰子はと言いそうだけど、スゲー面白くて、そんなブルースはぶっ飛んでしまうよ。
 ともかく福永は、武にすげー絡むのね。コテコテの関西人のノリ。武もそれに応える。スタートとか、よれてかぶせにいく。まず武が祐一にカマした。「おいおい、武さんのとなりってことで、萎え萎えですた」と祐一。武「もちろん凹ってやるつもりですた」。わはははは。しかし、やったらやりかえす。たしか、ディープインパクト皐月賞よれよれなんかも、まわりでねらってたみたいな話だから、かなり話はガチンコ。武も「人気ナンバーワンはそんなもの」という風に平然としている。祐一「一歩目から(道ふさぎに)いきますた」。武「カマしたら、大歓声で、落ちたかなと思った。ヤベー、次出られないかと思いますたよ」。
 笑っているけど、スゲーことなのかもしれない。シーザリオでもがいたオークス祐一。その流れをつくりだしたのは武豊。そんな展開は、後ろにいたロンゲのジャニは「武さんやったね☆もうボコボコにしてちょうだいって思いますた」とかゆってるのね。でまあ、そんなやりとりをみていると、騎手のかけひきが実に面白くわかる。シーザリオも、ディープも、最後のコーナーで出れば、間違いなく勝つってことがあって、人気を背負って、でもってみんなでイケズをする。外から道をふさいた騎手が「おまい、もう絶対ださねぇからな。わかったかごるぁああ。ザマミロ」みたいな言葉かけたりしているらしいし、スタートの時もなんだかんだ言いあっているらしい。
 上手く乗ったと思って、最後のすえあしもキチッとキマり、33秒台なのに、それをさされちゃやってらんねーよとか、裏話は実に面白い。裏話といえば、やはり気の荒いディープインパクトの裏話。後ろ跳ねしまくりで、パドックであれまくり、入場してもガウガウ。ところが、返し馬したあたりから、チャキッと落ちついた。武豊「しかし、落ちついたのはいいけど、寝そうになったのはビックリしますた」。見栄晴「エエエェェェ!」。武「そうだよなぁ。お前もみたろ」。福永祐一「そうそう。びっくりしますた」。武「砂場で寝そうになったもんな。もうちょっとでゼッケンドロドロ」。どんぶり崎でも言えないようなスゲーネタ。取材しないで言えるんだから、こういうことになると評論家は無力だよね。まあ騎手も注意深く言わないと、言葉尻で問題にする人たちもいるだろうから、たいへんだろうけどね。
 それにしてもディープインパクトはすごく強いらしい。「同世代では圧倒的」という武。それはダービーで実証されたようだ。祐一も黙っているからそうなんだろう。しまいには、「俺も乗りてえ」とかゆっているし。「武さんは、一番(・∀・)イイ!!馬に乗るけど、ボクの場合最初から乗って育て上げてゆくことが多いでつ。だから大変なんだもんね〜☆そんな、大物じゃないっしぃ」とかあくまでナイスキャラの祐一。シーザリオ載っている椰子がいうことぢゃねぇだろ。「早い」。それにつきるらしい。武豊は、馬的には死角なしともまで言い切っている。見栄晴「距離が伸びてどうっすか?」とおきまりの質問。「距離が伸びてどうってことがあると思いますか?」と言う武の微笑は、圧倒的な迫力でけだおされる見栄晴。武はさらに「距離がどうのこうのッテいうことで言えば他の馬の方がキツイと思います」。ボクシングのような派手なやりとりではないが、なんつーか、アレな言い方だけど、そこに勝負師の姿を見た気がした。
 こんなモン、深夜にやるなよ。あやうく見のがすところだったぢゃないか。っつーか、ビデオもとってないし。これはDVDにして欲しいところだけど、あれだけ話題のワールドダウンタウンのDVDも出ないくらいだから、これはむずかしいのかな。あるいはこれって、ふだんの競馬中継でとって出ししているの?最後に見栄晴武豊が、「本当に面白い番組ですね」と必死に訴えていた。これだけのものつくって、そのまんまってもったいねぇーぢゃんか。多チャンネル化してくると、こういうことはよくあるんじゃないの?オンデマンドで、さほど高くなく番組ダウンロードできるようにすることは、技術的にはさほどむずかしくないと思うんだけどね。チューナーつけるのうぜーし、地上波で我慢かなみたいな私のような人で、こういうのを見たい人はたくさんいると思う。私の場合、つけないのはうぜーというより、テレビをみすぎて身を滅ぼすってこともあるわけだけど。