リースマンとミルズ

 本日企画会議をした際に話題になったことの一つに、国際社会学会のアンケート「20世紀の社会学者」をめぐる話題である。複数回答にしてもミルズの『社会学的想像力』がトップというのは、やはりビックリしたということが話の発端。でもって、次に議論になったのは、リースマンである。『孤独な群衆』が売れた部数は、『社会学的想像力』どころのさわぎではあるまい。『ホワイトカラー』や『パワーエリート』をも上回るのではないか。しかも、リースマンの著作は格調が高く、また内容的にも現代社会の本質的な問題を鋭くえぐり出しているように思われる。「過剰同調説」「他者志向」という問題は、社会学の基本問題と深く切りむすんでいるようにも思われる。
 じゃあ、ダニエル・ベルはどうなんだろうという話になった。彼の場合は、『イデオロギーの終焉』『脱工業化社会の到来』『資本主義の文化的矛盾』と票が分散してしまうのかもしれないなどと話した。しかし、そんなこと言えば、ミルズも階級三部作ほかいろいろな著作がある。ベルの場合は、資本主義社会に対する深い洞察がある。また、保守主義などに対する影響力もある。そして、高橋徹氏も知識人論文集のなかで紹介しているように、アメリカにおける知識人ランクのような投票では一位になっている。そのわりに、20世紀の一冊にならないのは、不思議なものがある。いろいろな好みやなにかによって、いろいろな評価があるにしても、このような結果が出ていることについて、考えてみることはミルズ研究者にとっては重要なことなのではないかと思われた。
 閑話休題。むかしミルズについての本を出した時、編集者から「表紙をつくるのになにかミルズの写真はないか」という問い合わせがあった。91年当時は社会学者についての研究書が出る場合、表紙に社会学者の写真を使うことはけっしてめずらしくなかった。あの当時は写真使用についてさほど厳しくなかったのかなぁなどという話になった。まあしかし、アメリカの研究書などの場合も、きちんと手続きを踏んでいるとは思われるけれども、いろいろな写真がのっていることがある。ミルズの研究書の類においては、ホロヴィッツの著作、ミルズの書簡・草稿集などは、なかなかかっこいい写真を使っている。後者には、ミルズの家族がコミットしていることもあり、アルバムのようなものがついていたりする。じゃあそんななかで、ミルズについての本を出すとしたら、どんな写真をつかうんだろうか?で、文句なく合意できたのは、ミルズがバイクに乗った写真である。黒いつなぎを着て、大型バイクをころがすアーバンカウボーイ。これが一番ミルズらしい。内容的にも、これが一番ミルズっぽい。

 しかし、これを表紙にして本をつくったらどうなるだろうか。萌え〜と思って手にとる読者は、よほど上手く書いていなければ、ペラペラとめくって萎え〜となるのではないか。そして、本来キッチリ真面目に受けとめるタイプの読者は、表紙をみただけで買うのをやめるのではないかという話になった。なかなか言い得て妙なものがある。しかし、これだけのマッチョマンから、へなちょこ論を紡ぎ出そうとしているのだから、その試み自体はかなり笑えるものがあるような気もした。