トニー谷礼賛

 欽ちゃん、さんまちゃん、たけちゃんなどなど、いろんなものをみながら生きてきて、みんなそれぞれに面白いんだけど、もっとも「幼き日の思い出」として、脳裏に刻み込まれているお笑いはなにかと言えば、なんと言っても「アベック歌合戦」のトニー谷である。拍子木みたいなのを打ち鳴らしながら、ツイストを踊り、ツイストツイストする歌合戦参加のアベックに語りかける。「あなたのお名前なんてぇ〜の?」「林家ぺーでございます」「こちらのあなたのお名前は?」「林家パー子でございます」「こちらとこちらの関係は?」「長年連れ添った夫婦です」みたいにかけあう。細面でちょびひげのトニー谷のパフォーマンスは切れ味がよく、とんがっていて、すげーものがあり、そしてカップルの方は素人であることが多く、上手く掛け合えず、噛んだり、字余ったりしまくりで、その珍妙な間がまた面白かった。もちろん学校とかで真似してずいぶん怒られた。ルー大柴をもっともっととんがったと言うのでは足りないくらい、鋭角的ですごい芸人だったと感じた。元マネージャーの説明があるので載せておく。(引用元サイトには写真も豊富である)。

 「オトッツアン、オッカサン、オコンバンハ、ジス・イズトニー谷ざんす」この第一声で始まるジャズコンサート。面白、おかしくギャグに富んだ司会に各地のコン サート会場は熱狂的な、歓声で包まれていた。昭和の26〜27年ジャスコンサートはなやかりし頃である。トニー谷大正6年、東京で生まれ、終戦後上海から引き揚げ、その後米軍の慰間施設アニーパイル(現、宝塚劇場)へ入り、そこでショー制作、演出の助手になり、次第に司会をやるようになっていった。昭和24年アメリカの野球チーム・サンフランシスコ・シーノルズが来日その歓迎会の司会で「レデ  ィス・アンド・ジェントルメン・グッドイブニング」と 第一声を放ったのだが 客席はしらけてシーンとしていた、とっさに口から出た言葉が「レディス・アンドジェントルメン、アンド、オトツツァン&オッカサン」と言うと場内は大爆笑、ボードビリアントニー谷 誕生の瞬間である。
昭和26年ボードビリアンで1本立し、ソロバン片手  に日劇を始め舞台・映画・放送等で大活躍し、「おこんばんは」「サイザンス」を始め数々の“トニーイングリッシュを生み、トニー谷時代を作りだしたのである。昭和37年〜43年拍子木を叩いて「あなたの音前なんてえの、」アベック頃合戦はあまりにも有名であった。ソロバンを使い始めたきっかけは、本人の話による と、彼がトリオのバンドと一緒に東北のある地方を公 演している時、当時、バンドで一緒にマラカスを振っ ていた。昔のマラカスは、セルロイドの中に蓄音機の針が入っていたもので作られており、そのマラカスが公演中に壊れてしまい困っていたのだが旅館に戻って、なにげなく手にしたのが大黒ソロバン、振ってみると乾いたあの「カシャ・カシャ」という音、これはマラカスの代りに使えると閃いて使い始めた、それがトニー谷とソロバンの出会いであったという。
   元マネージャ   山本弘雄 没 昭和62年7月16日      享年69才
http://www.geocities.jp/hujipro/tony-tani.htm

 ところが、ボクシングやお笑いに関してはどうしても頭が上がらない人である寺沢正晴氏によると「あの頃は下り坂」「子どもが誘拐されてすっかりすててこの似合うとっつぁんになっちゃったら、芸人もしまい」とか、元も子もないこというわけですわ。トニー谷は子どもが誘拐されるという不幸に見舞われ、すっかり娑婆僧になってしまったらしいのだ。この前のすごさは、小林信彦が、『日本の喜劇人』(新潮文庫)で言っている。アドリブだけで長時間パフォーマンスし続けた様は、鬼気迫るものがあったという説明などが書いてあったと思うが、反論の余地はなく、たしかにそのころを実地でみた人には脱帽するしかないと思った。
 トニー谷は、コメディアンというよりはボードビリアンであり、そのあらましは小林の本にも詳しいが、村松友視が一冊本を書いていることは銘記しておく必要があるだろう。プロレス論のなかで、サンダー杉山雷電ドロップを「実に情けない」と描写した村松の文章には、私も寺沢氏も腹を抱えて笑った。イケメンレスラーを、短い足の日本人体型のサンダーさんが、ぴょこぴょこヒップドロップした姿は、その世界一かっこわるいドロップキックとともに、脳裏に焼き付いており、数々の名勝負のペーソス、リキシのスティンクフェイスのような言い訳も潔しとしない真摯で必死の勝負姿の数々を、「実に情けない」という一言で貫き通したことには、もう笑うしかなかった。そんな村松が書いたトニー谷論だから、面白いに決まっている。文庫本もあるが、単行本のほうの表紙の写真がとてもトニー谷らしいのでふたつともあげておく。

目次:
プロローグ 今、なぜトニー谷なのか
第1章 トニー谷の輪郭
第2章 永六輔さんの話
第3章 トニー谷の夜明け前
第4章 トニー谷の満開
第5章 ジョージ川口さんとメリー松原さんの話
第6章 愛児誘拐事件
第7章 トニー谷奇跡のカムバック
第8章 トニー谷の晩年
エピローグ トニー谷とは何か

トニー谷、ざんす

トニー谷、ざんす

トニー谷、ざんす (幻冬舎アウトロー文庫)

トニー谷、ざんす (幻冬舎アウトロー文庫)

 で、今の芸人でトニー谷をやった記憶としては、清水アキラくらいなんだけど、ものまねだし、なんかどこかで平成アベック歌合戦でもやらないかなぁと思う今日この頃である。番組が無理なら、リチャホのコントとかでしないかね。まあ、トニー谷知っている人があの番組見ているとも思えないから、あくまで元ネタとしてと言うか。それより、下衆天イーグルスとかもみたいね。とまあ、なんでもかんでもリチャホな今日この頃。
(追記)id:yakumoizuruさんのコメントを見て、CDも紹介しておいたらどうでしょう・・・とのナゾかけと思いまして、はまぞうを検索したら7件ヒット。一番あたらしものは、出た頃にタワレコで見た記憶があります。一応リンク貼っておきます。やくもせんせいありがとうござりました。

THIS IS MR.TONY TANI

THIS IS MR.TONY TANI