ふたたび夏が近づいたような気がする。日差しも強まっているし、少し動くと汗ばんでくる。昨年は選挙などもあり、又吉イエスの選挙ポスターをみて、うぜーうぜーとセミのように輪唱していた高校生たちを思い出したりもした。「うぜー」もそうだし、「キモイ」もそうだし、「むかつく」もそうだけど、生理的な過程での変化をベタにシャウトすることが、若者っぽさとして語られて久しい。それは脳が違うだとか、馬鹿だとか、動物化しているだとか、なんだきゃんだゆわれていることと関わっているだろう。
ゼミで『東京スタディース』を読んでいるのだけれども、そこでの発言で「新宿や渋谷は臭いからいかない」というのがあった。生ゴミのようなものが散乱していて臭いというのだ。生ゴミが臭いとか、ゴミ箱が臭いというならまだしも、街が臭いというのは、聞き捨てならないと思った。そこに住んでいる人だっているのだ。しかし、ひとしきり「議論」してみることにした。まず一つはそれをいうことが一種の存在証明のようになっていて、「臭くないところ」へのアイデンティファイが一定みられる。そういう場所は、テキストで言われている「余白的なもの」がリアルなところと言い換えてもいいように思った。もうひとつは仲間うちで「なんか臭いよね」「そう臭いよね」みたいに確認しあう傾向もあるといった発言もあった。いろんな大学のいろんなクラスでこの話をした。そうしたら、みんなふつうに知っていた。東京の人は、全員ターミノロジーに習熟していた。よくわからないのだが、体臭などの臭いに敏感なことを「鼻がきく」と自慢する人は、けっこうよくいるものだ。そんなことを主張してなんの意味があるのかはわからないけど、「うるさい方だ」「敏感だ」などと主張される。守ってくれる、家族や、地域や、先生などがない今日、そういうまなざしを人に注いでいる。それはなんらかのかたちで再帰する。かくして、おびえて居丈高な若者が現象する。そんなことを考えているときに、登竜門音箱においてミドリカワ書房の「顔」を聴いた。
「顔」
変わりたい どうして私はこんな顔なんだろう
ママに全然似てないんだもん 悲しい
好きな人は私のことなんか見向きもしないし
友達には全員彼氏がいる 悲しい
アイドルみたいにチヤホヤされたい
鏡を見てると涙が溢れ出る
明日こそはママに打ち明けよう
私 整形手術がしたいの
私 もうこんな顔 嫌なの
恋がしたい 恋がしたい 恋がしたいの
ママが言うことだって 私も理解しているわ
だけどママの綺麗だから
絶対わからないわ
女になりたい 男を感じたい
もう耐えられない 助けて ねぇお願いママ
パパにはまだ言わないでおいてね
明日私が自分で言うから
そんな悲しい顔しないで
ママって泣き顔も綺麗だよね
それに比べて私の顔は… いやもう言わない
もう言わないわ 私もママに負けない程の
恋がしたい 恋がしたい恋をしてやる。
（公式サイトより http://www.mido-shin.com/）。
公式サイトでは試聴もできるので、何度も試聴した。また、「歌詞がリアルというかストレートで、今時珍しい直球勝負の方だなぁと思いました。・・・大貫亜美（PUFFY）」「最近気付いた事がある。僕は音楽が好きと言うよりも歌を聴く、歌を唄うと言う行為が好きなのだ。このアルバムには、知らんぷりしていても耳を澄まさずにはいられない生きた歌があると思う。・・・松本素生 (GOING UNDER GROUND) 」といった談話も寄せられている。これはこれで「存在の金切り声」なのか？とげとげしいものでずたずたになって、鼻水流してシャウトする。歌詞は直球。ブラウニーのちる、いる、きるなヤヴァイ、まずいポップとはひと味ちがう世界だ。その歌詞に遅れるようにメロディがながれ、間合いはかけ合いのようでもある。気持腰のひけた音と、まっすぐに突っ走る歌詞の絡み合いは、面白い疾走感がある。一人バービーボーイズとかゆったら怒るだろうね。この人、ハマショーとかけっこう好きでみたいなことも書いていて、なかなかなかなかだ。「顔」以外の曲はさほど気に入ったわけではないのだが、一応アルバムを買うことに。店頭では買えそうもない−−もしかしたら円盤にありそうな気はするけどいそがしい−−ので、アマゾンで注文した。
2004年12月8日 初版
みんなのうた / ミドリカワ書房
OUTO-001 / \2,500
（収録楽曲）
顔
笑って俺について来い
だまって俺がついて行く
それぞれに真実がある
馬鹿兄弟
保健室の先生
雄と雌の日々
ユミコ
居るんだ
チューをしよう
緑川伸一改め「ミドリカワ書房」による、待望のファーストアルバムが発売になりました。各楽曲にDVD「スキージャンプ・ペア」でお馴染み茂木淳一（千葉レーダ）が、導入ラジオドラマ（!?）で参加。
