フードファイト再開

 究極の摂食バウトとしてのフードファイトは、三年近く前に愛知の男子中学生がテレビをまねてパンの早食い競争を行い、死亡した事故がおこり、放送は突然中止された。華麗なパフォーマンスで魅せるヴィジュアル系フードファイター小林と、黙々と不気味に食べ物をすすりこむカルト系のフードファイター白田という二大キャラを中心に、様々なキャラが登場し、さながらサスケ&筋肉番付クラスの盛り上がりを見せ始め、ホットドッグ早食いで猛々しい巨漢を静謐に退け続けたサムライフードファイターの姿はハラキリくらすのインパクトを世界に与えたに違いないし、またテレ東に義理立てする白田とステップワークの軽い小林と舞台裏ヲチャーの興趣をも掻きたてる要素もあり、惜しまれながらの打ち切りであったと思う。テレ東の菅谷社長は「視聴者から復活を望む声が多い。安全な形で視聴者にけんたんぶりを見てもらうことは悪いことではないと判断した。大食いと早食いは違うことを明確にし、時間をかけ、スピードを競わない方法を検討している」と語ったという(日刊スポーツ)。今朝パソコンをつけて、このニュースに驚いた。
 食べ物を貪り食うという営為は、がちんこセメントで格闘するというのとはまた違う、悲しい人間性と結びついている。フードファイターは時に,海がめの産卵のように血の涙を流してものを食らう。そして、食べると言う悦楽は、苦悶と化し、そしてさらにそれが転じてファイターズハイがおとづれると、亀の交尾のように「クァークァー」と悦楽のオノマトペを発することになる。その勇姿は、オノマトペの魔術師ともいえた一時期の富田茂のマンガのようでもあり、ギリギリのがちんこパフォーマンスを魅せる卯月妙子の舞台のようでもあり、あるいは過激にいじめられ、そのあとともに自己損壊的バウトを見せるフィギュアヲタの高山善廣だとか、「ホテルにおいでファイアー」大仁田厚などの傷だらけパフォーマンス、ギロチン安田における大晦日の一瞬の輝きなどとも重なり、貪り食いの見世物性を随伴した、人間性のドラマを映現させる。
 野島真司が、フードファイトのリアリティをドラマ化したときには、のけぞったけど、設定のあざといまでの巧妙さにぶっ飛んだ。野島が監修したドラマ『フードファイト』は、非合法の地下賭博としてバウトという設定を用いている。闇のギャンブルというだけではなく、ドキュソ雑誌で時々取り上げられたりする地下の殴り合い格闘技、キャットファイト、スナッフファイトなどをも連想させるようなところがある。こうした闇へのワクワクは、摂食バウトというもの悲しい、ある意味情けない、私プロレスの味方の人が言うサンダー杉山のライデンドロップより情けないゲロゲロファイトと結びついている。ファイターは時に、摂食バウトの合間にトイレに行き、嘔吐する。しかも、タイガーマスク仕様のチャリティー行為という定型のドラマを組み合わせることで、さらにリアリティにコクが出ているように思った。対戦者にはそれぞれのドラマがある。そして主演のミツル(草薙クン)には、抑えきれない悲しみ、怒りがあり、また友情がある。草薙クンの抑制された語りや、スタイリッシュなパフォーマンスは、虚空に飛んだましろ@「リップスティック」だとかの透明化された悲しみや怒りなどともつながり、キンキ剛と赤井英和のやり場のない怒りともつながり、また高校教師桜井のかなりヤヴァイ、かなりまずい法悦ともつながるような気がする。この番組には、こあファンは多く、ファンサイトがまだ維持されていて、再放送がどこかであると通知しあい、DVD発売への要請をするなど、多彩な活動を続けている。草薙クンの存在感も、このドラマでさらに確固としたものになったような気がする。
 リアルのほうのフードファイトは、別物だし、不用意な非合法アブノーマル志向、発言などは、袋叩きにあう世の中にあって、いやおうなくファイトは注目を集めるんだろうと思う。赤貧生活ほか汚れ系のバウトに連なるものなのか、この延長線上にあたらしいファイトが産まれるのか、注目してゆきたい。しかし、やはり食べ物のことだけに、一人の死者で打ち切りになったのかなぁ。昔はけっこうプロレスごっこで死ぬ人はいた。特に多かったのはボストンクラブ=逆えび固めなんだね。それでも打ち切りにはならなかった。それはともかく、摂食バウトは趣味の悪いファイトだと言う人も多いと思う。ならさ、わんこそば大会とかはどうなるんだろうとも思うけどね。いずれにしても30杯しか喰えなかった俺の言うことじゃないかもしれないけど。久々に「らいおんハート」でも聞いてみますかなぁ。この再開を受けて、ドラマのDVD化を期待したいと思うのであった。