スープチャーハンで原稿チェック

 論文などを執筆しているときは、あまり時間もなく、それこそサンドイッチ伯爵だか講釈だかではないが、片手で喰えるような食い物が一番ありがたい。しかし、一応原稿が仕上がって、点検するときは、少しゴージャスなお昼をしたり、お茶をしたりしたくなる。学生時代、院生でありながら、寮食の安い朝のうどんを二杯くったりして飢えを満たした金のないときなども、そいういうときだけは、奮発して国立のロージナだとか、ガラス玉遊戯だとかで、カレーを食い、そしてお茶を飲み、原稿の点検を行った。ゆったりした気分で、原稿を見ていると、向上心がわいてきて、サティスティックに自分の原稿を推敲する気になってくる。朱を入れて清書し、また朱を入れてと繰り返す。全体がソラでなぞれるくらいまで、頭のなかで転がすと、細部までコントロールされた文章を書けるような気がしてくる。
 最近けっこう締め切りなどが続いて、忙しかったわけだが、仕上げはゴージャスなランチってことで、理屈をつけてはいろいろ行った。昨日今日は友達と会ったり、学生の指導とかで行かなかったが、一昨日は伊勢丹上の南国酒家に行った。カニ子入りフカヒレスープって、ここのオリジナルかどうかしらないけど、ダイダイ色のカニ子がは言ったフカヒレスープはめっさ美味い。母方のおじさんはこれが好きで、これを一人で飲めるようになったら一人前とか、わけわかめなことを言っていた。本格中華のスープは何人かで分けて飲むもので、これを一人で飲むというのは、ぜいたくなことだ。私も一回これとメシと、あとザーサイの漬け物、それに空心菜とか青菜の炒めたのかなんか頼んで一人で喰ってみたい。しかし、そんな注文をゴージャスな店でするのはすげぇ抵抗がある。
 で、一昨日はスープチャーハンを頼んだ。プレーンな薄味のチャーハンに、数種類の野菜と、数種類の魚介類の入った五目スープみたいのをぶっかけて喰う。恩師の法要みたいな時にはじめて喰った。その時はビビンバみたいな石焼きどんぶりにチャーハンが入っていて、生ノリのスープをかけるかたちで、メタメタ美味く、もう一度喰いたいと思ったわけだ。しかし、定番メニューの場合は生ノリがない。そのかわり野菜が豊富で、栄養のバランスはよい。昔々、出前のラーメンなどをとると、麺を喰ったあと、メシをぶち込んでサラサラとお茶漬け感覚でかき込んだ。その延長線上で、自宅でチャーハンを作ってもらったときに、みそ汁とか、お吸い物をぶっかけて喰ったら、親に怒られた。口内調味のできないばっか食べというのがあったが、私の場合口内調味でななく、なんでも皿の上でグチャグチャに混ぜるクセがあったのだ。カレーも、卵もなにもひっかき混ぜて喰うのが好きだ。ラーメンとかツケ麺もトッピングしまくって、混ぜ混ぜして喰う。そんなわけで、スープチャーハンは理想の食い物だ。実に美味い。しかし、1530円だから、そんなには行けない。
 吉祥寺の南国酒家には、昼のコースとかランチがあって、二千円前後なんだけど、品数は多いし、量もそんなに多くなく、とても美味しい。そんなお値段の店なのに、店は非常に繁盛している。家族ズレもいるし、私みたいに一人で来て仕事をやったりしている。ウーロン茶も、簡易茶道仕様のけっこう本格的な入れ方のものが飲め、食後のひとときをゆったりすごすことができる。私はかなり勇気を出したぜいたくなのに、あたりまえのように喰っている人がいる。
 横浜の中華街のランチはぜんぜん値段は庶民的。1000円以下で、おかずとスープと漬け物かなんかがついてくる。ご飯はお櫃がおいてありおかわり自由。何人かで行けば、おかずを分け合って、ちょっとしたコース気分となる。そのかわり、ゴージャスな雰囲気じゃないし、「おしぼりは?」とかゆうとたちまち「うちはそんなもんおいてないよ」とかゆわれてしまったりする。横浜の中華街を悪く言う人もいる。たしかに良いコックは東京に引き抜かれてしまったりしているみたいだ。で、混んだときに逝って、麺類とかだけ頼んでも美味いわけがない。それはたしかに問題だけど、そうなんだからしょーがない。空いているときに、家族経営のコックの変わらない店で、得意料理を喰ったら美味いよ絶対。前に言ったかもしれないけどね。
 なんて話を人にしたら、「甘いで。ゴージャスと言うなら、ホテルとかの5000円〜10000円くらいのランチ喰え。どーせそのくらいパチンコですることもあるだろ」とかゆわれてしまった。ムカツク。