世田谷上町豪徳寺界隈散策

 今日は世田谷の短大に行く日である。朝の目覚めは爽快だった。秋の晴れた日に、井の頭線世田谷線に乗って、講義に行く。少し幸せな気分である。こういうことだけで、人間は少なくとも10年は生きられるかなぁ、などと思ったりもする。明大前で、週末発売の保守系週刊誌2冊を買い、ザッピングしながら、世田谷線に乗る。車窓の風景は、コア世田谷。杉並西荻、阿佐ヶ谷あたりともまたひとつちがう風景だ。上町で降りて、勤務校の青葉学園短大へ。教室に向かうと、やや学生たちもなじんできた様子であった。これ見よがしにしゃべっている一群があるけど、そのニュアンスはなんとなくだが感じ取れる気もする。もちろん、それを熟し切らない紋切り型の名詞や形容詞で括りとろうとするのは、暴力というか、馬路低劣だと思う。よくいるよね、「おまえらさ、○○なんだろ。おれもさぁ〜、若い頃はさぁ〜・・・」みたいな馬鹿。それはそれで芸があれば、すばらしいことだけど、そんなものは自分にはない。となれば、間合いをはかって距離を保つことが肝要となる。何気ない一瞥や、あるいは表情をつかった、一瞬の真剣勝負が、この教室にはある。「こうあつかって欲しい」と顔に書いてある人たちを相手にするのとはまたちがう面白さがある。
 授業が終わって感想の紙を出しに来たやつの一人が、「講義のプリントをおにいちゃんとみていて・・・」。この間合いに、冷や汗がタラ〜。おいおい家族とノート見ているのか?激ヤバ。まじーこと書いてなかったかな。っつーか、実用書を読むみたいな授業だし、なんかやっぱご批判あるのかしら・・・見たいに思ったら、「会社で役に立ちそうだし、面白いから、またみせてくれというので・・・」。ほっと一息。間合いおくなよと思いつつ、アテクシ「じゃあちゃんとやらないといけないな」。その椰子「うん!」。うーん、懸命のよいしょか、はたまた大学の間諜で励ましに来たか、あるいは・・・と、ひねくれた思考。醜男醜女ほど口説きにくいという俗説があるが、あるていどそれはほんとだろうな。猜疑心ありまくりだからね。でもまあ、今日は爽やかな晴れた日だし、なんかいい気分なんであるな。
 そんなことで帰りは、下高井戸まで歩いて帰ろうと決めた。三茶方面に歩いたことはあったが、それはコア世田谷な町並みを見ることもさることながら、三茶の今川焼きを喰うことに主眼がある。さほどにチーズクリームはンまいのだ。しかーし、今日は食い物目当てではない。純粋に歩くのだ。下高井戸までの道は、先日耳鼻科に行ったときに、東京都医師会の啓発雑誌に、散策コースとして紹介されていたものだ。それは、豪徳寺から北へのコースと、南へのコースのふたつだったんだけど、それを上町から、下高井戸まで歩く。主な道はそのコースを思い浮かべながら、公園などにはよらずに行こうと思い出発した。
 城山通りを、世田谷城趾公園の方へ、しゃれた喫茶店だとか、ショップがあるなかで、目を引いたのは、テレビ各駅停車とかゆうので紹介されたという、エビ天五本の天丼の店。なんだよこんな近くなのか。だったら、喰いに来ればよかった。身体にどうかはともかく、一回喰わないといかんと思った。世田谷城趾は、いかにも城趾という小山であるが、下の公園にあるブランコなんかの乗り物が、史跡としての興趣をそいでいる。まあしょうがないんだろうね。なんてことを考えつつ、しばらく歩くと豪徳寺参拝口へ。なかなかの佇まいである。そりゃあ彦根の殿のお寺だし。中に入ろうかと思ったけど、今日は卒論の約束が二時にあるので自戒にしようと歩き続け、世田谷線の踏切が見えるちょうど宮之阪電停あたり、豪徳寺2−2−2のぞろ目のところで、一本手前を豪徳寺駅方面に曲がる。住宅街の中に、ときおりしゃれた店だとかがあり、ジョギングの人と何回かすれ違った。また、五十代とおぼしきスラックス姿にカメラをさげた女性ともすれ違った。
 細い道を歩いてゆくと、いつの間にか豪徳寺の駅前商店街に至った。間口の狭い個人商店がたくさんならんでいて、活気がある。倉敷に観光に行った卒業生からもらった「大原美術館も閉まっていて、ゴーストタウンのようでした」というメール*1を思い出した。豪徳寺で西におれて、世田谷線山下駅で、踏切をわたり、赤堤方面に向かうのが医師会ご推薦のコースだったが、私はひたすら線路沿いに進んだ。歩いてみるとわかるのだが、線路沿いの道は、一部は遊歩道っぽくなっているものの、他はさほどでもない。道をそれると、石畳で舗装された遊歩道のような通りや、公園などがある。住宅街に混じって、いろいろなお店がある。タウン誌を見たらでていそうな、レストランやお菓子屋さん。昔からのおそば屋さん。あと、やたらコンビニが目立った。表参道界隈にカフェが多いのとタメなかんじ。線路沿いも、少し工夫すればいいと思うんだけど、今は無理なんだろうねぇ。
 歩いていると、ときおり世田谷線が通る。個人的な趣味としては、荒川線の方がワクワク感は大きい。それは、自分にとってソウルフルであるからとか、そういうことでもない。映画の『息子』を何度も見たからでもない。*2電車の線路が、路面電車な雰囲気を残しているからだ。でも、世田谷線はそういうこととは別に楽しい空間となっている。どっかのベンチに腰かけて、しばらくボーっとしたい気分だったが、そのまま寝てしまいそうなカンジもしたし、待ち合わせもあるし、不審尋問とかされたらやだし、遊歩者でござるとパフォーマンスしながら、てくてく歩くと、ほどなく下高井戸に着いた。行程30分くらいかな。このくらいならつらくない。
 また時間をみつけて、歩こうと決意。と同時に、本当はそっちが趣味のはずの、深川、門前中町あたりを、てくてくあるいてみようかなぁとも思い出した。岡山に赴任当初、法界院駅前のバス停から、岡大東門まで、徒歩でも10分たらずのところをバス通学していて、目撃され、学生や教職員の間で話題になってしまったことがウソのようである。

*1:正確に言うと掲示板の書き込み。

*2:都電な風景としては、あの映画はかなりよかったと思うけど。