便所の落書きとブログ

 ブログの功罪について、いろいろなブログで論じられている。言説、評論としての意味がブログの文章にあるのかといえば、それはなんとも言えないし、ブログの意味についてはどうかとか、そういった立論、理論構成にはあまり興味がない。というか、あまり論じる気はしない。だいたい否定するか、肯定するか、というような立論をする場合、言いたいことがまずあって、その前提で理論構成すれば、論理的正確性というのは、その前提をどれだけ堅持したかという意味しかない。私はへなちょこなので、闘争心もプライドもないし、結局譲って終わりになる。
でも言いたいことはいくつかある。ブログ、とりわけはてなは、簡易データベースとしてすごい威力があるというのは、私も禿げしく同意する。つかってみればわかるが、記載事項に[]で見出しをつければ、簡単にテキストログがデータベース化する。検索も可能だ。昔何十万も出して、Dベースというようなソフトを買ったのがウソみたい。しかもあれはフォーマットの枠組みを創るのが異様にうざかった。まあそれだけなら、はてなにしなくてもいいのだろうが、はてなの場合は、キーワードがリンクされる。これはすごいことだ。たとえば何気なく「へなちょこ」と書いた。そしたら、キーワードリンクされた。エェェェ(´Д`)ェェェェエと思って、クリッククリックする。そしたらさ、語源が書いてあったのよ。「ヘーゼルナッツチョコレート」。知らなかった。まあこんなのは無意味といえば無意味だけど、いろんな日記の説明とリンクするし、またキーワードもユーザーによって、マルティプライズし、説明も増強される。公開するリスクは計り知れないけど、私はそういうところは、あんまり気にしない。気にする人は苦痛だろうが。
 2ちゃんとブログは違うという差別化があったけど、そういう議論もあまり興味がない。だいたいがネットワークという思想自体もともとはヒッピーがつくったわけだ。ジョブズはいまだにヒッピーみたいなものだろう。当時のヒッピーは、きたならしかったし、セックス、ドラッグ、ロックンロールでどうしようもなかった。ラブアンドピースなんて、フリーセックスとかしていた椰子らは、今はホームレスのぢぢい、ババアになったりして問題になっているなんて話もある。でもそこから、「新しいつながり」の思想が生まれた。岡山でライブハウスなどをやっている能勢伊勢雄さんのインタビューから。

 昔、東京まで行くんだったらね、入場券で岡山駅入ってとにかく列車に乗って行って、向こうの電話器の裏を手でさぐりよったらね、必ず一枚や二枚の入場券が置いてあって、それを持って出る。こちらも当然入る時入場券二枚買うて入って一枚は電話器の裏につっ込むという、そういう仁義みたいなのが当時は確立されていたからけっこうどこへでも行けたし、各大学の寮なんか絶対宿泊できてたですね当時は、そういう現実があったんです。映画をもって日本列島の端から端まで行けるんだということを知ったんですね。そういうものがどんどんなくなっていった時期(七四年)に場をつくろうとしたんですね(見るという基本に立ち戻れ あうシネマの予感 ペパーランド」パンフレット)。

 要はとんでもねぇキセルなわけだけど、アングラってこんなモンだろう。2ちゃんもブログも、つかいかたでは、そこから新しいものが出てくると思う。大差はないと思う。まあでも、正直私は、猥雑なものに対して、郷愁をどうしても感じてしまうのである。だから2ちゃん贔屓なのかもしれない。2ちゃんは便所の落書きという話があったけど、私は便所の落書きは昔から大好きだった。中学の頃トイレに入って気づいて、いろんなデパートやなんかのトイレの落書きを見て歩いた。かれこれ6年くらいやったかな。あくだらねぇ落書きがほとんどだったけど、名もない絵師や、詩人がいて、ワクワクした覚えがある。場所によってはモーホーの人たちのたまり場っつーか、ハッテン場っつーんですか、あれになっていて、トイレで落書き鑑賞していたら、「にいちゃん」とかゆってノックするおっちゃんもいた。「ちゃいまんねん」と言えば、それですんだよ。同じ趣味の人がいるもんで、早稲田の法学部かなんかの人が便所の落書きを本にしたはずである。
 小谷野敦は、非常にツボな書き手で、書いているものはすべて買って読んでいる。最近も『すばらしき愚民社会』を買って、そこにおける2ちゃんなどの批判や、知識人、大衆、馬鹿の批判を読んで、とても面白かった。特にゆとりの教育批判には、禿げしく同意。2ちゃん論は、考え方は違うけど、罵倒の仕方はすごくよくわかる。水と油とも言えるはずなのに、なぜ共感が失せないのか。それはたぶん「あとがき」における言説の再帰に滲む著者のスタイルに信頼を感じるからだと思う。モラリストの言説に触れ、自分の開き直りを反省するのは実に心地よい。しかし、私は煮え切らないモゴモゴを続けるしかない。