月夜のユカラ−−東京エスムジカ新譜を聴く

 学生引率にひっついて、草津ハンセン氏病療養所に行ってまいりました。療養所内でバイクを転がして、「コンチワー」とゆって自分の住まいの方にむかったぢいちゃんと、学生が歩いているのをみて「まーぞろぞろあるいちゃって」とゆったばあちゃんと、「高原だけどさむくないよぉ〜〜」とゆって通り過ぎたぢいちゃんと、「みんなかわいーこと」とゆって通り過ぎていったばあちゃんと、ほれから納骨堂に誰一人の名前も刻まれていなかったことが、目に焼きつきました。私は弱者の味方になることで絶対正義を手に入れることができるという情緒とは一線をひいておきたいと思って生きてきたんだけど、無理矢理ポップをみようとするのも、大差ないかなぁと、思い始めました。
 昼飯抜きで見学しとんぼ返り、上野で豚カツを喰い、そのあと所用をすませて、吉祥寺に帰り、新星堂によると東京エスムジカの新譜『月夜のユカラ』が出ていたのでさっそく購入しますた。「百萬年ノ孤独ヲ愛ス」とあるのだが、「ユカラ」の意味がわからずネットを検索。ミュージックネットの新譜解説から引用しますと。

「月凪」に続く東京エスムジカの“月”シリーズ第2弾シングル。アイヌ語で“物語”“叙情詩”を意とする今作は、漁に出たまま帰らぬ彼を、幾夜も待つ女性の切ない心を歌った、有一無二の世界観で魅了する珠玉のナンバー!9月2日・宜野湾市海浜公園野外劇場でライブを行う予定。

 なぬ、月シリーズで世界観で魅了するですと。ううううう。って思いつつも達意の文章に感心。そうかぁとおもいつつ試聴しますた。ぶんちゃぶんちゃと、リズム拍子は不安定にずらしてあるカンジで、安直なまとまりを許さないきびしさというか、製作者の統合失調なモチーフ=複数文化的なコラボレーションをボディーソニックハビトゥスしちゃってたりするわけで、ニャハ。で、メロディーは、あいかわらず透明感があり、でもってそこに清涼であり、しかしまた野太いボーカルが乗っかる。そして、文語調の情調的でちょこっと紋切り型の詩句が衒いなく続くのは、あいかわらずだけど、そこにワケわかめなことばが続く。
 これってさ、やっぱあれだよね。アイヌ語。と思って調べたらやっぱそう。まぜまぜハイブリディティが、才気煥発に炸裂するっつーカンジで、意地悪い嫉妬心を喚起するのは、むかつくけどやっぱすごい。一節うなると、演歌から民謡、フォークローレ、ブルースからジャズへと、瞬間にワープして、寡黙にメタモルフォーゼする浜田真理子のアコースティックな運動も、一節に森羅万象世界を表現する俳句っちょさを感じるわけだけど、東京エスムジカの透明な不安定もスゲェと思います。サビのところが寸止めで、叙情的メロディー発射!!ってならないところが、また今っぽくていいよね。NSPとかだったら、歌いまくるところだろうからな。この曲で一番いいのはやっぱ、「へいや〜」とか女性ボーカルがシャウト?して、でもってバックで男性ボーカルがおんなじふうにシャウト?するところだと思う。最初レベッカの「ムーン」の「せんぱ〜い」みたいなもんかと思い、ゾゾッとしたけど、わかったあとは別の意味でゾゾッとした。馬路(・∀・)イイ!!っす。
 #2の「オレンジの実る頃」は、スパニッシュ・コネクションとのこらぼなんすけど、昔はやった「スペインの国境で」だっけな、邦題名。忘れちゃったけど、「On the Border」とかゆう曲があったんだけど、まずあれ思いだしたね。あ、イーグルスじゃないっすよ。だけど聴いているうちに、あれ?とおもったんだよね。これって、中森明菜じゃないの?って。歌詞の中に「ミ・アモーレ」とか入っているし、確信犯ですかって。ここでも、歌詞では、紋切り、体言止めなど、炸裂しまくりで、だけどすごく洗練されたカンジがする。これはもうワールドダウンタウンだな。ワロタ。#3の「月凪」の韓国語バージョン。私の唯一の関心事は、前の時日本語の詞にハングルのバックコーラスがついていたのが、逆転しているかと言うことなんだけどさ、やっぱそうなんですね。ニャハ!わかっちゃいますたってカンジで、ひじょうにうれすぃものがございますた。で、レコセルのレコメンドも引用しておきます。

「月夜のユカラ」
“ユカラ”とはアイヌの言葉で“物語”“叙事詩”を意味します。漁に出たまま帰らぬ彼を、幾夜も待つ女性の切ない心を歌っています。一部日本の古語とアイヌの言葉を組み合わせて歌詞を構成しており、絶妙な深みを醸し出しています。東京エスムジカの夢幻の世界がこの2nd singleでも存分に表現されています。

「オレンジの実る頃」
イタリア南部地方ではオレンジの収穫時期に、北アフリカからの季節労働者が大勢やってきます。地元の娘と恋におちることもあるでしょう。南伊のまばゆい陽光とラテンな熱いラブ・ストーリーをイメージして聴いてください。また、スパニッシュ・ギター、タブラー、ヴァイオリンの3人編成で、注目を集めるインストゥルメンタルグループ「スパニッシュ・コネクション」がゲスト参加しています。

「月凪」(韓国語Ver)
デビュー・シングル「月凪」の韓国語version。韓国ではこのversionがメイントラックとしてリリースされました。韓国語詞は瑛愛が書いています。“将来的にはいろいろな国の言葉を自由に取り入れながら作品を発表していきたい”という彼らの活動の第一歩です。

 複合文化的なコラボっていう趣向は(・∀・)イイ!!し、月シリーズの世界観で魅せるってこともあるんだろうけど、やっぱそういった諸々を具現しているのは、不安定な疾走の透明感であるような気がする。月の水面を心地よくずんずん進む船。舟板ひとつ下は地獄。男と女の愛。そして死。映画「パーフェクトストーム」は、波ででんぐりかえる映像ばかりが目立っているけど、漁師さんの生活を丁寧に描いた佳作だと思っていて、したがって冗談抜きで、その1シーンを思い出した。心地よく進む船。ラストの「最高の仕事だ」というせりふは、心に突き刺さるものがありました。この映画は、めずらしく映画館で観ていて、映画館を出るとき、「あれって、法の華福永みたい〜」とか、ゆってる奴がいて、思わず「逝ってよし」とつぶやいてしまいました。