佐々木倫子・綾辻行人『月館の殺人』

 この作品が『月刊IKKI』に連載開始されたとき、本屋を探し回って雑誌を探し、あきらめモードが横浜の有隣堂で発見して購入したことは記憶に新しい。雑誌は付録とともに保管してある。そのことは購入した日の日記に書きつけてある。「山田のネコ」などの作品により「動物描き」の定評を得ていた佐々木倫子が『動物のお医者さん』により大ブレイクすることで、佐々木の作品でもやもや見え隠れしていたものが、菱沼さんをはじめとするキャラとして明確な形象を得たときに、佐々木倫子がミステリーやホラーを書くことは約束された。そんなことを書いたような気がする。それはやや自己模倣気味になっている佐々木ワールドに新しい作品性を加える可能性があり、『IKKI』という実験っぽい場所において、試行が行われることは楽しみであるものの、さすがに月刊誌、週刊誌の類を毎週フォローすることはかなりの苦痛であり、またゼミにおいてブレーンとなってくれるような学生もおらず、単行本が出たらまとめて読もうと思っていた。それがでたので、さっそく買ってきてめくってみた。私は普通の本だけでなく、マンガも読むのが遅いので、まだ通読したとは言えない状態ではあるが、とりあえず書きつけておきたいと思う。

月館の殺人 上 IKKI COMICS

月館の殺人 上 IKKI COMICS

 前のエントリの題目にした「稚瀬布初月館行幻夜号」をはじめ、「お父さん」「私は電車に乗ったことがない」「高二の春」といった語句が、破調の俳句のようにしてザックリ書きつけた絵には、いささか大げさではあるが、新しい表現形式誕生の予感がした。コマ割りも、二ページぶち抜き、斜めザックリ、小刻み箱箱などにより、リズムが奏でられ、語句と絵のせめぎ合いは、竜虎相撃つっていうか、初期のザバダック吉良と上野みたいな緊張感あるかけあいにううううと力みかえって読み進むと、ザックリした絵でキメとなる歌舞伎まくりの曼陀羅絵図。その絵は、菱沼さん的ポリフォニーっつーか、ヘンで、狂気で、でもまったり、ぐだぐだっぽくて、それが「眼」の作画としてマンガ化されており、なんとも言えない「間」があったりもして、余韻ありまくり。実に(・∀・)イイ!!と思ったものでありますた。
しかし、読者の希望があるのかどうかよくわかりませぬが、第二回目以降は実験性歌舞伎まくりというよりは、ぐだぐだぎゃぐぎゃぐな佐々木ワールドちっくが、随所にでてきて、定番佐々木スタイリッシュ炸裂みたいなカンジになっております。それでも、サスペンスを新しい表現でというようなことは伝わってくるし、まあしかし、これなら浦沢直樹のほうがやっぱ安心して読めるンだけどなぁとも思ったりもして、なんともにんともであります。つまりは、筋がストンと落ちるように読みほどくには、それなりに時間をかけないといけないわけであり。しかし、描いている人の才気はビンビンに伝わってくるし、スタッフの気迫もひしひしと感じる。で、筋なんですが、「祖父−−まだ見ぬ唯一の肉親に会いに行くため、夜行列車<幻夜>に乗り込んだ17歳の女子高校生・空海(そらみ)。だが、乗り合わせた乗客たちはあまりに奇妙、しかもはじめての北海道、雪、列車と、沖縄育ちの空海を眩暈がするほどの混乱が襲い・・・・・・そんな中、事件は起こる!!」。そう帯にはある。
 この帯には、応募券がついていて、8月25日発売の『月刊IKKI』10月号にある応募台紙に貼り付け、規定の料金の郵便為替を同封しておくると、プレミアム「月館」ジグソーパズルを全員サービス!!なんですと。全員とは気前イイジャンと思いつつも、規定料金でサービスだからなぁ・・・でも、買いに行ってしまいそうだ。それはともかくとして、佐々木倫子にはギャグなしのホラーを一度描いてもらえないものかなぁと思うんだよね。楳図かずおの『まことちゃん』の口がヘビ女といっしょで、思い出して怖すぎという話もあるのだが、佐々木の絵の随所には、ヘビ女や、肉面を凌駕するほどのオーラがあるんだけどね。まあそれが売れることかどうかはわけわかめなのだが。

江口寿史『JUMP WORK 1 ストップひばりくん!』

 ランがまだ使えるみたいだし、今日は一日中大学で仕事だった。こもってお仕事。そのあと水泳。そして、久々に阿佐ヶ谷にメシを喰いに行った。福來飯店でメシを喰い、本屋で立ち読みをするというのは、比較的のんびりした時の日常だ。歩こうかと思ったのだが、泳いだし、暑いし、やめておいた。佐々木倫子以外にかったのは、江のひばりくんと、近藤ようこ春来る鬼』。後者はすでにもっているのだが、誰かが借りパクッたのか見あたらない。めんどいから、買ってしまった。前者はもっているのだが、イラストギャラリーだとか、インタビューだとか、CD-ROMなどがついているということで買った。CDには、壁紙デスクトップピクチャー、スペシャスクリーンセーバー、時計・カレンダー機能付きスケジュラー、iPod photo 用画集、テンプレート集(名刺・ポストカードなど)がついている。まあこれは買うでしょう。

 江口は、言うまでもなく白いワニだぁああああで、あんまし描かなくなっちゃったわけだけど、イラストレーターとしてはかなり自負するものがあるみたいだし、実際非常によいものをたくさん描いているように記憶していた。で、まあポップアートのような絵をギャグマンガにしてしまったのがひばりくんで、抜群ダヨなぁと思っていた。とある学生が、ごくせんおかま仕様などと言っていたが、あたっているようないないような。で、あらためて読んでみると、やっぱちょっと時代的制約があるような気がしないこともない。20年以上前の作品ということからすると、やむをえないのかもしれないわけだが、「矢沢あいなんかよりずっとポップ」と学生に大見得をきったのは、あまりに気合いがすぎたかもしれない。それでも、最近描いたとおぼしきイラスト集などは、なかなか健闘しているんじゃないかと思う。それにしても、こんなものをよくアニメにして、ガキが見ている時間にやったものだと思わないことはないんだが、幼稚なうちのぢぢいは、悟空とひばりくんはかならず見ていたから、案外ガキにもうけるのだろうと思う。
 浦沢直樹とか、鳥山明とか、安心して読めるマンガ家の絵は、わりかしかっちりしたものが多いと思うし、江口もかっちり系な文化圏にいるのだろうとは思うのだけれども、破調な部分が単に崩しているとか、余白をつくっているというのではなく、西原理恵子の作画にときおり見られるような線の美しさやリズム感がページの基調になっているところがあり、スゲー新しいなどと思うと同時に、じゃあきんどーさんとか、ガキデカとか、あるいはデキンボーイとどこが違うと言われると、ちょっと違うんじゃないとしか言いようのないところがあってなんともにんともです。しかしそれにしても、かなりトラウマな絵やイラストが多く、江口は無理せずよくやってきたなぁと思ったりした次第。
 このシリーズは、パイレーツやひのまるが所収されるみたいだが、やっぱ地獄少年うしみつ君@『NANTOKANARU DE SHOW』は掲載の仕様もないんだろうね。手術で光を取り戻した少女の話とか、怪獣が電車をあぶって喰う話とか、やばいほど面白いネタ満載で、話題騒然であり、ビデオ版(たぶんビデオ屋にはあるんじゃないだろうか?岡大前のビデオ屋にはあったけどね)まででて、教養部の授業で話したら、みせろとかゆわれて、ショーがなく見せた記憶がある。近藤の作品は再三論じたので作品紹介のみ。
 わかりもせずに理屈をこねてしまった。こねてしまった以上ひらきなおるしかないよな。

春来る鬼

春来る鬼

著者の短編の中でも一つの完成形を示す80年代前半の作品を収録。時代に左右されることのないストーリーの完成度は常に高い評価を得ている著者の、現在に至るまでの原点が凝縮された貴重な一冊!/収録作品:「くらくら」「水の女」「薄荷煙草」「純情」「鈴木さんの日曜日」「醜女の日記」「しあわせ」「生成」「寝室」「春来る鬼

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