岡田朋之・松田美佐編『ケータイ社会論』

 ずいぶん前になりますが、編著者の方々から、ケータイ社会論をいただきました。恐縮しております。ご恵投いただいた3名だけでなく、すべての執筆者の方々にお礼申し上げます。ありがとうございました。
 CMC研究が、時代的な要請を受けて開始され、伝言ダイヤル、ダイヤルQ2、ポケベル、ケータイ、2ちゃん、ブログ、SNS等々、メディア社会学は体系的に専門分化し、全国の精鋭の研究者たちが、様々な成果を世に問いかけてきました。理論研究、調査研究双方での成果はめざましいものがあり、国際標準の成果も出るようになってきました。そうした研究に、学生たちを誘う著作として、ペラペラとめくりました。モバイル社会の自在性ばかりでなく、その生きづらさの側面にも着目しており、コクのある思考を楽しむことができる一冊であろうかと思います。

ケータイ社会論 (有斐閣選書)

ケータイ社会論 (有斐閣選書)

音楽プレーヤー,読書端末,財布としての機能まで有し,日常に欠かせないものとなった「ケータイ」は,私たちのコミュニケーションや社会の変化にどのように関わっているのか。「社会的存在としてのケータイ」を読み解くことで,現代社会の一側面を描き出す。


第1章 ケータイから学ぶということ
第2章 「ケータイ」の誕生
第3章 ケータイの多機能化をめぐって
第4章 若者とケータイ・メール文化
第5章 ケータイに映る「わたし」
第6章 ケータイと家族
第7章 子ども・学校・ケータイ
第8章 都市空間,ネット空間とケータイ
第9章 ケータイと監視社会
第10章  ケータイの流行と「モビリティ」の変容
第11章 モバイル社会の多様性−−韓国,フィンランドケニア
第12章  モバイル・メディア社会の未来を考える
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641281257

 ケータイ学の提唱からもうすでに何年もたったわけで、この間のケータイの変化、社会の変化を踏まえ、構成がなされています。自己、友人関係、家族、学校、地域、国際など社会学概論の主要項目を押さえつつ、監視社会など興味深い題材も盛り込まれています。概論や社会学の基礎ゼミなどで、概説的なものを半年やったあとこの本を使うとか、あるいは逆にこの本を通してまず半年やってしまうとか、いろいろな教育的な工夫が可能であるなぁ、と思いました。
 もちろん言うまでもなく、編著者たちはこの分野の研究を担い、リードしてきた人たちであり、それぞれの調査研究などを分厚く積み重ねてきた上に本書が書かれているわけであり、学問的な信頼度の高い著作であることは言うまでもありません。また、「モバイル・メディア社会」をめぐるさまざまな政策プロジェクトなどにも一定の影響力を持つ著者たちであるわけで、そういった意味でも読者はいろいろな刺激を得ることができるのではないかと思います。
 岡山から東京に戻ってきたばかりの頃、ケータイで卒論を書きたいというのが現れ、藤村正之氏に『ポケベル・ケータイ主義』という本を教わりました。以降、友人関係論などの成果を踏まえた卒論や調査実習報告などが出始めました。先行研究のレビューをさせて、川浦説、辻説、松田説、中村説・・・などど、整理させ、修正・・・説みたいな仮説をつくらせ、調査をしてまとめれば、いっちょあがり、とか、指導がマニュアル化されて、学生の方もけっこう学びやすかったンじゃないかと思います。
 と同時に、卒論面接などでは、社会学的な思考をもう少し突っ込んで指導した方がよいなどとの指摘を受けたりしました。これはもちろん、指導する私の責任です。それがけっこう難しく、概論とのつなぎになる本を渇望していました。そういう意味で、本書は非常に使える本であるということができると思います。他の分野も、同様な工夫が可能なのでしょう。類書の続刊を期待したいです。