ワールドダウンタウン考

 昔、「げばげば90分」という番組があって、当時の二大人気者大橋巨泉前田武彦が司会をやるということと、お笑いにしては珍しい90分毎週やっちゃうよっつーことで、大注目だったわけだけど、私としてはお笑いじゃないけど時代劇の「素浪人月影兵庫」「素浪人花山大吉」だとか、あるいは勝新太郎の「兵隊やくざ」のほうが数段笑えまして、なんじゃこりゃあと思って見ていたなかで、唯一ハラ抱えて笑ったのが、今は亡きハナ肇の「あっと驚く為五郎」というギャグです。要するに、今はたけちゃんがよくやっているニッカボッカの似合う土方のおっちゃんふうのハナ肇が、馬鹿な顔して「あっと驚く為五郎」と意味ものなくいうわけだけど、「馬鹿が戦車でやってくる」なんていうすげぇ作品で主演していることもあるけど、芸があるっていうか、ものすげく面白かった。また、これはお笑いじゃないんだけど、時々菊三が笑点でマネやっていた片岡千恵蔵なんてえのは、時代劇の大御所だったわけだけど、「大岡越前」のころは、少々滑稽なご隠居おやぢ殿をこなしていて、そのおかしみは芸以外のなにものでもなかったと思う。これは、「月影兵庫」の近衛十四郎が、おかしかったのと似ているように思う。まあしかし、「隼奉行」の千恵蔵の遠山金四郎みて、二重三重に桜が吹雪く*1のに大笑いしていたのは、いささかピントはずれだったと思うけど。
 でもって、ワールドダウンタウンなんですが、やはり面白かった。禿げしくわらいますた。ネタ自体についていえば、作為的なまでに、ぜんぜん面白くないっていうか、オヤジギャグ、シモネタ、こどものからかい遊びにしても、ワンパターンだし、世界のニュースなんかも、まあ今日のドライバーみたいなので歯を無理矢理ひっこぬく歯医者はかなりインパクトあったものの、これはレアケースに近く、ハマタも「また、チンコ出しているだけやないかー」と伏せ字なしに怒り狂っていた、ワールドレコーダーズなんかも寒くて痛い以外のなにものでもないワンパターン。ジョージ、ナタリア、ジルのワンパターンのせりふ=どうだいジョージ→欧米で今一番・・・→どうだいナタリア→シモネタ→エレクト、いやエクセレント!!とワンパターン。裸踊り、今日の着衣ダンス、ニューヨーク大学の女子スチューデント、ゲーハーAD、モーホー松本もずっと一緒。唯一、局アナのマッキーと歌手のマッキーというネタだけは、ネタとして面白いと思ったけど。まあそれはともかく、ワンパターンがシュールな執拗さでくり返される。そして、アレンジは愚劣なまでにくだらない。厨房ネタっていうか。今日の口臭ネタなんか、果てもなく愚劣だけど、おかしい。醜悪や猥褻を描いて、なお典雅な文学と同じっていうのは、お笑いを格下に見る物言いで、あまり好まないけど、ワールドダウンタウンは、それでも面白いし、毎週みたい番組だ。なぜか?
 それは、まず第一に、ジルや、ジョージや、ナタリアの所作ふるまい表情、そして間が面白いから。人外だから、どれほどのもんだかわからないけど、私には大喜劇俳優ッツー人たちよりも面白いとすら思われる。第二に、ハマタと松本の間や、ぼけやつっこみや、頭ははたき方が面白いから。そして第三に、声優のそれが面白いから。もしかすると声優が一番面白い。この三つは、ものすごい芸なんだと思う。たけしが、「最近のお笑いはネタで笑わせるだけで、芸がない」みたいなことをいっていたことを意識したワケじゃないと思うけど、極限的に愚劣で、ワンパターンなネタを、極限的にゴキゲンな間や芸でみせますた、みたいなところに野心のようなものを感じる。また、人外、ダウンタウン、声優のシンクロという枠組みも新しい実験なんだろうか。昨日の制作、企画の番組化だとか、今日のドラマと演劇のコラボレーションとか、そういう「高度に実験的な」試みができることと、ドラスティックに競争論理の貫かれたすべてを消耗品とする世界が、ハイテンションに両立していることには、考えさせられる。私としては、消耗品化されたくない文化の方がより実験的であることもあり得るという風に考えるべき立場にいることだけはたしかだと思うが・・・。

*1:えっと、まずそこそこの証拠をつきつける。しかし、悪役は多少たじろぐモノの動じない。でもって、金さんがこれがみえねぇかと桜吹雪吹かす。オオ!!と悪役は仰け反るがそれでも悪役は動じない。そこで登場するのがお約束の巻物。金さん「ここに決定的な証拠があるYO」。悪役「スンマソン」って、恐れ入谷の鬼子母神。そこで金さん巻物をみせてばーかめーぇぇぇと、巻物が白紙であることをみせて、からかい、とどめを刺す。悪役「あいたー」ってかんじ。このシリーズ面白かったなぁ。