ゼミシラバス+入ゼミ問題(レッツチャレンジ!)

「山の稜線や空のいろが虚空のはてに流れ出したり、そびえ立つ樹々の肌が、岩より硬く大きく割れだしてみえる日に、そのような世界の間を吹き抜けてゆく風の音が、稚い情緒を、いっきょに、人生的予感の中に立ちつくさせることがある。ことに全山的に咲く花々のいろや、その芳香というものは、稚いものを不可解な酔いの彼方に連れてゆく。春の山野は甘美で不安だが、秋の山の花々というものは、官能の奥深い終焉のように咲いていた。春よりも秋の山野が、花自体の持つ性の淵源を香らせて咲いていた。女郎花、芒、桔梗、萩の花、葛の花、よめなの花、つわ蕗の花、野菊の花。そのような花の間に名も知れぬ綿穂を浮かせたちいさな草々がびっしりと秋色をあやどり、それらが全山に開花してゆく頃になると、空は静謐に深くなる。山の中腹の萩や葛の花の下にもぐり込んで横たわり、彼方を仰げば、花頂をはなれた全山の綿穂や花粉がいっせいに、きら、きらと光りながら霧のようにただよいのぼり、山々の姿が紗をかむったようにゆらめいているのをみることがある。山野が放つ香気のようなものが目に見えるのである。稚いものにはそのような山野の精気は過剰すぎ、ある種の悶絶に私はしばしばおちいった。光りながら漂う花粉とともにわたしの感覚は山々をめぐり、それは早すぎる官能の告知ともいうべきで、空のはたてに離魂しているような酔いからようやくさめて、とんびにさらわれたような目つきになって帰るときを、たぶん、ものごごろつく、というのででもあったろう」(石牟礼道子『椿の海の記』より)。

というわけで、ひとが「ものごころつく」ことについて、グローバル化する都市のフィールドワークを通して考えます。テキストは次のようなものを予定しています。こちらの心づもりとしては、1を読みながら、フィールドに出るワンステップとしたいと思っていますが、メンバーからテキストなどのアイディアがでるといいな、とも思っています。

 1.阿部真大『居場所の社会学―生きづらさを超えて』日本経済新聞出版社
 2.古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』講談社
 3.遠藤薫編『グローバリゼーションと都市変容』世界思想社
 4.吉見俊哉・若林幹夫『東京スタディーズ』紀伊國屋書店

 ゼミのやり方は、テキストをもとにひたすら語るというローテク、ローファイなゆるいかんじのものです。しかし、インタビューやフィールドワークについてはかなりねばりづよくやって、しっかりそれをまとめあげることがとてもだいじです。どういうゼミになるかは、メンバー次第です。みなさんなりのゼミをつくってください。卒業までに、もし、みなさんが「ものごころつく」とすれば、もしかするとこのゼミならではの味わいに気づき、さらには私のきびしさもおぼろげにみえてくるなんてことがあるかもしれません。卒業するとき、みなさんはどんな表情をするのでしょうか。

注意:志望理由書にはまず志望理由・希望の研究主題などを書き、その後に次の問に対する答えを添えて下さい。

(問)上記引用下から2行目「とんびにさらわれたような目つき」とはどんな目つきか。