『ライフストーリー・ガイドブック』

「乱暴と待機」

「乱暴と待機」

 井腰圭介先生から本をいただく。井腰先生は本学の大学院,および学部で質的調査の講義を担当いただいている。授業後質問のための学生の行列ができる授業である。丁寧なプリントをつくられ,的確なアドバイスをされている。うちのゼミの大学院生は、私が無理やり受講させたにもかかわらず、すっかり心酔し、来年も受講するが他の人がとらないとありがたいなどと勝手なことを抜かす始末だ。本書でも重要な部分を執筆されており、配慮の行き届いた論が提示されている。私の勤務校出身の江頭説子さんの論文を引用してくださっていた。先日の生活史研究会での報告とも関わるものであろう。井腰先生とは,生活史研究会ほかでご一緒したりもしている。本書には,井出裕久先生ほか,その研究会でよくお目にかかる方たちが多数執筆されている。
 事典的な性格を持ったブックガイドで、ルソー、サルトルウェーバー,グレイザー=シュトラウス,ベルトー、エリクソン、ギンスブルク、エルダー、ガーフィンケル,ミルズ,サックス,ジェイムズ,ベンヤミン,プラマー,見田宗介、水野節郎,桜井厚、石田忠柳田国男、井上俊、中野卓、沢木耕太郎佐野眞一正岡子規浅野千恵,掛札悠子、蘭信三、蘭由岐子、鳥越皓之、浅野智彦などなど,多様な人々の著作が採り上げられている。一番ありがたいのは,非常に詳細なインデックスが付いていることだ。まさに妥協がない。もうひとつは,文献ガイドも丁寧だということである。非常に使い勝手がよいもので,東北大学のグループが訳した質的研究法の大著などとともに,重要なスタンダードとなってゆくはずである。

ライフストーリー・ガイドブック―ひとがひとに会うために

ライフストーリー・ガイドブック―ひとがひとに会うために

第1部 ライフストーリーとはなにか(ルイス、O.『貧困の文化』;宮本常一民俗学の旅』 ほか)

第2部 ライフストーリーから迫る―方法としてのライフストーリー(トーマス、W.I./ズナニエツキ、F.『生活史の社会学』;ベルトー、D.『ライフストーリー』 ほか)

第3部 ライフストーリーのかたち(柳田国男『故郷七十年』;ケラー、H.『奇跡の人』 ほか)

第4部 ライフストーリーがひらく世界(吉村典子『子どもを産む』;ロック、M.『更年期』 ほか)


珠玉のライフストーリー約90点を66人の研究者が丁寧に紹介。姉妹書『エスノグラフィー・ガイドブック』と資料が連携。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4782305095.html

 私個人としては,ミルズについて言及してあったこと,それともう一つ石田忠先生の著作が採り上げられていたことが非常に感慨深かった。慶応大学のグループが原爆の記憶論を研究していることは,有末賢先生や濱谷正晴先生から聞いていたが,このような形で若手の方が解説されていることは感慨深い。今後も注目していきたい動向である。ミルズについては、バイオグラフィー概念の検討やプラマーの議論との比較など、含蓄ある議論が提示されている。
 早速授業で使ってみたくもなったが,どうやって使えばいいのだろうか。考えるだけでなかなか楽しい。