山田信行『社会運動ユニオニズム』

 山田信行さんからご高著をご恵投いただきました。恐縮しました。UCバークレーでの在外研究を踏まえた事例研究で、直接の研究対象は米国であるが、日本の状況をもにらむ構想がクリアに浮かび上がる。学会でお会いしたときに少しだけ話をうかがったが――はくづけの証拠づくりなどではなく――実質的な在外研究に対する自信がみなぎっていて、心地よい敬意を覚えたのが思い出された。
 スケールが大きく、しかも考察の焦点が明解な著作群を発表されてきた本格派の社会学体系が新しいステージに入ったことが実感される。このことは、「あとがき」で、ご自身でも次のように言われている。「本書の刊行以降、「労使関係の歴史社会学」は「第2ラウンド」を迎えることになろう。「第2ラウンド」の研究プランについては、ひとまずは、日本を含めたアジアへと関心を回帰し、3.11以降の社会状況をふまえたうえで、アジア地域における社会・労働運動について理論的・経験的な研究を継続していくことを考えている」。研究の本格的な展開、という意味で、非常に学ぶところの大きいと思う。

ミネルヴァ書房紹介ページより

労働運動の「再活性化」を検証
アメリカ移民労働者の組織化の戦略と方向を実態調査から捉え、その意味と課題を分析。


近年、グローバル化のもとで格差の拡大が指摘されている一方で、多くの国々ではそれに対抗する労働運動の再生あるいは「再活性化」が指摘されている。本書は、米国における移民労働者を主体とする労働運動に関する実態調査をもとに、日本との比較も視野に含め、労働運動の再生と、その一つの形式である社会運動ユニオニズムがもつ関係論および運動論における意味と課題について明らかにする。


[ここがポイント]
◎米国でのフィールドワーク成果。労働運動は、多くの紹介があるが、実際の調査に基づいた著作は少ない。
◎米国の労働運動を検討することが主題ではあるが、同じくユニオン運動などが注目を集めている日本における事例との比較も行っている。


詳細目次などはこちらへ
http://www.minervashobo.co.jp/book/b146801.html

 これまでの理論書の多くは、難解なものが多かった。難解と言っても、混線しているわけではなく、論の腑分けが精密で、密度が高く、論旨を追うのに胆力がいるという意味である。ところが、今回の著作は調査研究ということもあってか、非常にわかりやすいものになっている。山田さんの知る人ぞ知る、というか一定年齢の人は誰でも知っている技芸は、相当の観察力とデッサン力が必要なことは明らかであり、調査研究でこそ,そうした力量はいかせるものなのだろうと思った。はじめてお会いしたときのことを思い出す。岡山大学の共同研究室で関連文献資料を山積みにしたら、素早く取捨選択されていった。最初の難解な理論書をいただいたときには、こういうのを書く人だったのか、と驚いたくらいなのである。
 わかりやすい理由としては、もう一つに多くの章の初出が英語で書かれたということがあるのかもしれないとも思った。二つの言語をゆきかうことで、思考が研ぎ澄まされ、論理的な原基構造が顕わになってくる。そんなこともあるのかもしれないと思う。そういう意味で、「労使関係の歴史社会学」の新しい局面は、非常に読みやすいとともに、非常に刺激的でもある。ありがとうございました。