近森高明・工藤保則編『無印都市の社会学』

 菊池哲彦さんからは『無印都市の社会学』を送っていただいた。ありがとうございました。なんかほんとにすみません。ちまたのうわさで、イケメンな執筆者集めたらしい、とか聞いていて、いただいた当座、読むより先にやったのは、一人ずつ画像検索である。途中でやめたけど。*1
 本の方は、卒論で大船の街の調査をしたのがいて、その卒論でレビューされていたので、引っ張り出してきて読み返した。その後、岡山大学時代の受講生が訪ねてきて、社会人入学で修士号をとり、地域デザイン学会の本に書いたと献本してもらったことがきっかけで、もう一度ひっぱりだした。そっちの方はバリバリのイノベーション戦略系でゆるふわなイケメン都市論*2とは一線を画すんだろうけど、そっち方面でもこういうのが読まれてもいいんじゃないか、などと思った。コンテンツからコンテクストみたいなこと言っているような学会みたいだし。
 内容は、コンビニ、家電、腐乱2、漫喫、パチ、ラーメン、Bオフ、フリマ、フェス、チャリ、FNC、巡礼、秋葉、寄席等々。

アマゾンの紹介

日常の「あるある」を記述しながら、その条件を分析することで、都市空間と経験様式に対する社会学的反省の手がかりをえる。
コンビニ、ショッピングモール、家電量販店…いつでもどこでも同じような商品やサーヴィスを提供してくれる安心・安全な街。フラりと立ち寄って、それなりに満足させてくれる都市空間は、何を与え、奪うのか?どのように社会学したらいいのかわからないイマドキのあなたのための指南書。

目次

? 無印都市のフィールドワーク
1. 無印都市とは何か?
2. 都市フィールドワークの方法と実践
? 無印都市の消費空間
3. 人見知り通しが集う給水所(コンビニ)
4. 消費空間のスタイルがせめぎあう場所(家電量販店)
5. 安心・安全なおしゃれ空間(フランフラン
6. 「箱庭都市」の包容力(ショッピングモール)
7. 目的地化する休憩空間(パーキングエリア)
? 無印都市の趣味空間
8. 孤独と退屈をやり過ごす空間(マンガ喫茶
9. 匿名の自治空間(パチンコ店)
10. 味覚のトポグラフィー(ラーメン屋)
11. 「快適な居場所」としての郊外型複合書店(TSUTAYA/ブックオフ
? 無印都市のイベント空間
12. 目的が交差する空間(フリーマーケット
13. 「場」を楽しむ参加者たち(音楽フェス)
14. 順路なき巨大な展示空間(アートフェスティバル)
? 無印都市の身体と自然
15. 都市をこぐ(自転車)
16. 都市空間を飼い慣らす(フィットネスクラブ)
17. ビーチの脱舞台化・湘南(都市近郊の海浜ゾーン)
? 無印都市の歴史と伝統
18. すぐそこのアナザーワールド(寺社巡礼)
19. 構築され消費される聖と癒し(パワースポット)
20. 不親切な親切に満ちた空間(寄席)
http://itohiro.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html

 「いつもの<あるある>をフィールドワークする」。お!と思う。
 三浦展が『アクロス』をやっていたときに、さまざまな出会いや発見を鋭い感性で捉えて、イメージ化した。郊外化、ロハス、ボボス、「おいしい生活」、無印良品WASP(ホワイトカラー・アメリカナイズド・サバーバン・プライベーツ)等々。こういう一種リゾーム?wな絡み合いをコンテクストということばでとらえたのは、今井賢一金子郁容なんかだと思うけど、三浦展はそれをイメージマーケティングの方法として提示し、団塊ジュニア消費だとか、さまざまな市場の可能性を見据え、文脈化の議論に論じいたっている。伊勢丹のコンシェルジェだとか、出始めた頃のアマゾンのおすすめだとか、あとi-modeとかにそういう文脈化の装置としての可能性を見いだし、論じた。他方で、アウトレットモールなんかをコンテクスト化を阻害するものとして批判し、ちょっとすったもんだしたりしたのも記憶に新しい。
 社会学の場合は、1000万人市場の創出、なんて言う必要ないこともあるだろうけど、発見!創出!出会い!文脈!とかゆうんじゃなくて、「あるある」っていうことになっちゃう。おったまげーション!でドヤってぼけてるのに、「あるある」とつっこむ。*3そーいや、大学院入学したばかりの1回目のアトミックボンバーヘッド先生の授業で、「よくある議論」とゆったら、すげぇ怒られて、一時間言い争いしたの思い出した。「あるある」でみえてくるものだってあるよね。たしかに。浅田彰が「終わることも終わっている」ってゆったのは、80年代だった。とっくに終わっちゃってて、あるあるってどうするのよ、と思ったら、ちゃんと用意されていたのが、「ゾンビ目線」。さまざまな意匠が広告都市のゾンビっていうだけじゃない。三浦がディスったアウトレットモールとか、テナントとか、そんなものも、ゾンビだと言えばわかるし、発見!とかゆうのももちろんゾンビ。「消費をとりもろす」という三浦的な戦略も、ゾンビだから、どこか興趣あふるる。こういう言い方って、言いっ放しだと、ボードリアールとかもゆってね?みたいな話になるんだけど、言いっ放しにしてドヤるんじゃなくて、*4フィールドワークとかで粘り強く向かい合って、「飼い慣らす」というんだから、松田モトジもスペルペルもハッキングもぶっとぶかもしれないってことでしょうか。「ゾンビを飼い慣らす」っていう滑舌はなかなかに味わい深い。
 しかし、PAには震えた。うちのまわりさ、だんだん駐車場増えているわけ。池袋とかも「ちょこっと進むと駐車場が広がっているような」みたいに言われてて、夜中になるとうちの近くもやばいかんじ。さっきもコンビニ行ったら、横のパーキングんところに白チャリ数台と覆面止まっててなんか捜査みたいのしてたし。
 なんともにんとも輪郭がなくなっちゃっているのは、自己も都市も同じことなわけだけど、都市文化論、都市論の場合は、高度成長期、バブル期、その後みたいな時代の変遷を踏まえながら、郊外化論だとか、『東京スタディーズ』だとかを踏まえて、面白い議論が提示されている。理論はお任せな人たちが集まっているわけで、非常に味わい深いと思う。ないないからあるある、とか、「ゾンビにボケる都市東京」って、気の利かないコピーだけど。
 本当にありがとうございました。繰り返し読んでみます。しかし、1番震えたのは、法律文化社から出てるってことかな。

*1:なお、きっくさその続報によれば、編集者も若いイケメンでコンプガチャだそうです。熱心な方らしく、法律文化に新しい風が吹くかもしれませんね。

*2:かしまさんが、ここに食いついていたけど、ゆるふわも、イケメンもグレムリンみたいなもんだろってことは言うまでもないと思われる。

*3:つっこみ力って、こっち方面やっぱパオロ系でこおばしいよね。なんとなく。いや、「ボケ力」か。w

*4:80年代に大阪の研究会で、浅田の議論をめぐって、サルトルのような一流ですらボードリアールのような三流に及ばないという話になったときに、井上俊先生がサルトルいいと思いますよ、とおっしゃっていたのを思い出す。その辺の案配を総合するとゾンビになるのかもしれないよね。