松田洋介他『「復興」と学校――被災地のエスノグラフィー』

 松田洋介さんから、『「復興」と学校』と『ペダゴジー社会学』の二冊をいただいた。本当にありがとうございました。
後者は、バーンスティンのペタゴジー論を論じたもので、久富善之退官論集のような位置づけの本であろうかと思う。元々はオッタマゲーションでおなじみの「階級!」ゼミ出身で堅牢な社会構造論を学び、後藤道夫、竹内章郎といった人々によるその現代的展開に学んだ松田さんは、理論にも造詣が深く、ちょこっとアーチャーとかの話をすると、たちまちホットな動向を紹介してくれたりして、感歎した覚えがある。

ペダゴジーの社会学

ペダゴジーの社会学

 前者は、震災後の陸前高田のフィールドワークである。

「復興」と学校――被災地のエスノグラフィー

「復興」と学校――被災地のエスノグラフィー

書店抜粋

 岩手県陸前高田市東日本大震災で,街の中心部を含む広い範囲が壊滅的な被害を受けたことで知られる街.この地に住む人が「震災前はあまり知られていなかったこの街が,震災を経て全国区になった」と話す街.それが本書のフィールドである.
 本書の執筆者中,震災前の陸前高田を知る者は,私のみである.その私が震災後の陸前高田市を訪れたのは2011年4月2日.発災から20日ほどが経過していたが,街には瓦礫が一面に広がっていた.目的地は高台にあるモビリアという県営のオートキャンプ場で,そこが避難所になっていることを知ったのが3月末のことだった.震災前は家族とキャンプをするために訪れる場所であったその地が,その日は活動をともにするNPOの仲間と訪れる地に変わり,その後には,本書に関わる研究者たちをこの地につなげることにもなった.(中略)
 本書の主なフィールドは,陸前高田市の中心部である高田町から東へ向かった沿岸地域で,漁業を中心とした地域が震災により壊滅的な被害を受けた.津波で中学校2校が全壊し,地震で中学校1校の使用が難しくなり,3中学校はいずれも震災後,近隣の小学校を間借りして学校を再開した.そしてその3校は,その後単独での開校をすることはなく,2013年3月に閉校し,4月から1中学校に統合された.震災前も「統廃合」はこの地で課題となっていた.しかし,震災によってそれが大きく進められたという印象を払拭することができない.過疎化・高齢化・少子化を抱える地域で,それに追い打ちをかけるかのような被災は,地域を,学校や教師を,子どもたちの学びを,どのように変えていくのだろうか.震災から2年間のこの地の学校教育の現実に,できる限り迫ってみたい.
――本書「はじめに」より

目 次

はじめに
第1章 地域と学校の状況 妹尾 渉
第2章 学校再開のプロセス 清水睦美
第3章 被災学校における「非日常」と「日常」 松田洋介
1 被災地でつくられる「学校的日常」/2 非日常の中でつくられる「日常」/3 震災が何をもたらしたのかを思い巡らす
第4章 「被災を生きる」教育活動 清水睦美
第5章 被災地の学校教育の現在を捉え直す 堀 健志
第6章 被災学校の「その後」をつくる
      ――B中学校,最後の一年間の参与観察から見えてきたこと 松田洋介
第7章 被災から学校統合へ 日下田岳史
第8章 地域にとっての学校統合 山本宏樹
第9章 被災・支援・調査――外部の意味 清水睦美
https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0246880/top.html

 相貌からすると「!」が似合う硬派な社会科学者という感じなのだが、現代のさまざまな教育問題を論じるステップワークは、なかなかに軽快にも思える。同じ神奈川県人だなぁ、と思うこと何度もあった。一番笑ったのは、愛読書?の著者である竹内章郎氏に初めて会ったとき、顔を見て、あちゃこりゃあかん、と逃げ出したくなったが、話をしていると本で読んだとおりの人で感銘を受けたという話である。同じような印象だったので笑えた。で、メシ食ったりしたときの共通の話題は、そうした現代社会科学の展開と、もう一つは『生の技法』である。
 母校は、堅牢な古典読解を基礎とするウルトラアカデミックな仕事を生み出す伝統がある。応用的なものについても、理念の展開出会ったりすることが少なくなかったように思う。しかし、ある時点から、確実に現実の社会問題と取り組む成果が多数生まれるようになった。松田氏が、そうした新しい伝統をになっていることは確かだろう。共著者中村好孝とメシを食うことになったときに、もう一人食いたがっているのがいるというので、オッケーしたのが始まりで、焼き肉でザブトン食いまくったり、就職祝いにはくそ高いステーキ食ったりしたんだが、こうして自慢できれば十分モトはとったと思う。