鈴木弘輝『つながりを探る社会学』

 鈴木弘輝こと、こーきたんさんから、ずいぶん前に本をいただきました。なんかばたばたしていて、お礼もろくにできず、ここに至っています。覚えているのは、リブロでこーきたんふぇあが行われていて、うわぁ、と思ったことと、あと、誤植が告知されていて、それがたった1カ所だった、うわぁ、と思ったことくらいです。申し訳ありません。改めてめくってみると、非常に刺激的な本です。

つながりを探る社会学

つながりを探る社会学

ネット時代の〈つながり〉とは?
人は「新しい自立やつながり」を探ることはできるのか? 膨大な情報を受け取ることで、ただそれを無感情に受け流すだけになっていないだろうか?
「情報社会化」を否定するのではなく、その可能性が十全に開花するような変化とともに「新しい自立とつながり」のあり方について、スピリチュアリティ(宗教現象ではなく、現象学派心理学としての意)をひとつの柱にして考える。


まえがき
序章 「現代社会論」との比較
第1章 コミュニケーションの喜びを求める動き
1 「コミュニケーション論」という授業
2 「分人論」における喜びのあり方
3 「演劇論」における喜びのあり方
4 スピリチュアリティおける喜びのあり方
第2章 コミュニケーションの喜びを抑圧する社会
1 大きな「社会的文脈」としてのグローバリゼーション
2 現代の職場で行われているコミュニケーション
3 現代の日本における「つながり」の現状
4 「日本版ポストモダン・コミュニティ」の出現
第3章 「新しい公私関係」の可能性
1 「日本版公的領域」と「日本版私的領域」への批
2 「演劇論」と新しいコミュニケーション
3 「スピリチュアリティ」と新しいコミュニケーション
4 「新しい自立とつながり」の探求
補章 スピリチュアリティの学問的位置づけ
参考文献
あとがき
http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002264

 「社会」、というか人と人とのつながり、というものの基本的な趨勢として、だんだんと可変化し、自在になってゆくというふうに考えてみることができて、それはドラスティックに進行してゆくわけだけど、時代時代に絶妙な落としどころを発見して、相対的な安定を得る、というか相対的に安定した説明を与えるような枠組み、モデルが、提示される。部族的な宗教儀式だとか、地縁、血縁だとか、あるいは国民国家と個人を単位とした民主主義、近代家族だとか、そんな枠組みがそうした枠組み、モデルなわけだけど、ドラスティックな力動によって再構成されてゆく。今日20世紀に相対的に安定を与えていた枠組み、その説明が与える絶妙な落としどころが、色あせて、再編成が行われているそうした力動は、グローバル化などとしてとらえられ、情報資本主義、格差社会などなどが、論じられるに至っている。そして、そこにおける逆理なども見据えながら、さまざまなリスク(社会問題、当事者としての「弱者」)をむしろ資源動員する活力ある社会、そこにおける新しい公共性や関係・規範が問い直されている。人と人とのつながりは、カオスで砂粒みたいにわけわかめになっているけど、それはまた可能性の発現でもある。こーきたんがむかいあっているのは、そうした問題群なんだと思う。
 こーきたんが取り組んできたのは、実にハードボイルドな社会学理論で、絶妙な落としどころを、これでよくね?みたいにどやる論者をねこそぎゲラゲラし、クールに規範やなにやかにやを論じてゆく議論なんだろうと拝察する。その辺からみると、オウム真理教から、少年犯罪などなどの問題も、見通しよく見えてくる。『アキハバラ発』だとかの心の闇論を読むならば、柔軟に分散する社会において、どやれるなにごとかを求める心みたいなものが、不特定多数への殺意を惹起することが説明されている。「誰でもない誰かを殺す」。「わけわかめ自死をそる」。それによって、失恋殺人とか、自殺かゆう、鬼のように凡庸な行為とはことなる、神々しいものが獲得される。だからどやるなよ、ということもできる。
 他方で、見田宗介の「思想のことば」とかをみる。あるいは、『社会学入門』の南条あや論でもいい。そこには、ネットアイドルにやすらぎをあたえていた分散する親密性が描かれている。それは同時に、分散する悪意、憎しみ、あるいは殺意などの説明にもなっている。
 こうしたなかで、「ぼくはクールですから」とか、なんか訛ってどやるのは、まあそこそこたやすいことなんだろうけど、ぼくらのこーきたんは、スピリチュアルということばに注目して、自立を考えるという方向性をとる。高校の教科書にも造詣が深いこーきたんは、その強みを生かして、ユニークな本を書かれている。えびぞりになって高校教育と大学教育を橋渡しする本になっているのだと思う。でもね、二年ゼミで報告させようとしたら、引き受けたのが泣き入れてきた。。むずかしいって。たぶんそいつがいけないんだと思うけど。