山本泰・佐藤健二・佐藤俊樹編『社会学ワンダーランド』

 少しだけ時間ができてきたので、いただいた本について、書けることを書いてゆきたいと思います。順不同になります。この本は、佐藤健二先生からいただきました。ご厚情賜り、恐縮することしきりでした。ありがとうございました。この本は、東京大学の学問俯瞰講義の一つをまとめたものであるということです。学問の全体像をトップランナーがざっくり示す講義で、社会学トップランナーが集結した講義になっています。iTuneと連携していて、講義自体も聴くことができるようです。学術コンテンツ、文教ソリューションというような、最新動向にも対応してゆく最高学府の意気込みが伝わってくるような気がしました。最初のところで、『反社会学講座』が出てくるのも驚かされました。アカデミズムでは、少なくとも公式にはハブられている本だと思っていたからです。
https://itunes.apple.com/jp/itunes-u/id473164260?i=101165346
 これまでは概論系の講義やゼミでは、『Do!ソシオロジー』を用いてきました。基本的なフレームが明快な著作で、盛り混み具合もムリがないからです。自習用テキストとしてはギデンズ本とか、コリンズ本とか、奥井智之本とか、ミネルヴァの現代社会学とか、1人で書いたもののほうが、シュタッと一本線が通っていて学びやすいと思ってきたのですが、Do!は考えを一新してくれるものでした。ワンダーランド講義は、枠組みや用語を盛り込むというよりは、具体例を用いて、考え方の要点を解説するものになっています。

社会学ワンダーランド

社会学ワンダーランド

<内容詳細>
いろいろな分野に入り込んだ社会学の赤い糸をたどりながら,それぞれの糸が絡まり合う新鮮な「社会学の世界」を描く,これまでにないスタイルの入門書.最前線にいる10名の社会学者が,日常生活,ことば,文化,都市,消費社会,学校,健康,さらに被災地支援や,アジア全体の社会の変容など多彩な領域における研究を紹介し,そのテーマにおいて使われた「社会学的な対象」を発見する方法,独特な技〈アート〉を説き明かしていく.社会学という学問の全体像を横断的に紹介した2010年東京大学学術俯瞰講義,待望の書籍化.
<目次>
第1章 常識をうまく手放す
   ―集計データから考える
  1. 3人の社会学
  2. うまく手放す技法
  3. 事例から考える

第2章 桜見る人,人見る桜
   ―神は細部に宿るのです
  1. 1つの研究ができるまで
  2. 「常識」と事実のずれ
  3. 自分の手と目で調べる
  4. 戦略を組み直す:1.0と2.0と1.5
  5. 「桜の春」は1つではない
  *コラム1―桜の色はどんな色?

第3章 「ことば」の不思議
   ―身体性・社会性・空間性・歴史性
  1. 無形の可能性に満ちた不思議な道具
  2. ことばは「身体」である
  3. ことばは「社会」である
  4. ことばは「空間」である
  5. ことばは「歴史」である
  6. ことばは社会学の基礎である

第4章 怪物のうわさ
   ―クダンの誕生
  1. クダンという怪物
  2. 流言・うわさの研究の展開
  3. 既存の説明の問題点
  4. クダンを読み解く

第5章 建築紛争の現場から
   ―「景観」をめぐる秩序形式
  1. 社会問題の現場に飛び込む
  2. 住民の論理・開発の論理・行政の論理
  3. 景観問題の事例演習
  4. 国立マンション訴訟
  5. 新たな秩序形成に向けて

第6章 常識を抉る手法としての「比較」
   ―現代中国を眺めながら
  1. ブレインストーミング
  2. 東アジアの夢?:有名大学進学への渇望
  3. 学歴社会の日中比較:その異同を考える
  4. 教育による収入格差是認の3つの要因
  5. まとめ

第7章 探偵小説におけるテクストの不安
   ―『アクロイド殺し』の犯人をめぐって
  1. 『アクロイド殺し』とは
  2. アクロイドと彼をめぐる人物
  3. 都市の不安
  4. ポワロの推理
  5. 探偵小説の基本形:3つの視点の交差
  6. 『アクロイド殺し』の反響
  7. 四項関係:「語り手」の問題
  8. 無実のオイディプス:テクストの余白を読む
  9. 超越性の回復
  *コラム2―消費社会

第8章 広告都市をめぐって
   ―都市の発見
  1. イントロダクション
  2. 舞台としての都市と消費の蜜月
  3. 性愛の純粋化
  4. 消費社会における都市変容:広告都市渋谷
  5. 東京ディズニーランド:外部の隠蔽
  6. 消費社会の神話の崩壊と現代

第9章 学校という制度
   ―教育の社会学・入門
  1. 教室空間の秩序
  2. 時間による管理
  3. 教育で獲得する知識とは
  4. 教育におけるコミュニケーションスタイル
  5. 学校という制度と近代社会
  6. 教育の平等をめぐるトリレンマ
  *コラム3―オックスフォードでの学び

第10章 健康の観点から生き方と社会を問う
  1. 健康社会学とは
  2. 健康・病気と保健・医療の世界におけるパラダイムシフトと社会学・健康社会学
  3. 健康生成論とストレス対処・健康保持力概念:Sense of Coherence(SOC)
  4. SOCの具象化(「見える化」)の試み

第11章 被災地支援の社会学
   ―東日本大震災の支援ネットワーク
  1. 被災地支援の取組みと課題
  2. 東京大学被災地支援ネット
  3. 支援の社会学:「後方支援」と「主体としてのネットワーク」

終章 これから社会学を学ぶ人に
   ―学術俯瞰講義「社会学ワンダーランド」最終回より
  1. 講義を終えて
  2. 社会学の勉強とは
http://www.saiensu.co.jp/?page=book_details&ISBN=ISBN978-4-88384-193-6&YEAR=2013

 それぞれの講義は、「得意ネタ」をじっくり説明するなかから、考え方を際立たせるものになっているように思います。私は概説のゼミでは、面白い新書を一回一冊で何回かやるようにしているわけですが、そのようなやり方を整理して、考え方のコードをいくつかざっくり示すと、こういう著作になるのかな、と思いました。今日本語表現法の講義をしています。その鍵語としているのがコードとテンプレートなのですが、コードの知識は共通科目で、整理してゆく必要を感じ始めたところです。そんなこともあり、どうしてもそういう方向性から読んでしまうから、このように思うのかもしれません。
もっとコードを明確に示すこと、体系的に示すこともできたのかもしれません。しかし、そうなると講義をするのも、本を作るのも、1人ならともかく、複数人だと無理があるでしょう。だから大人の選択でこうなったのかな、とも思いましたが、もしかするとそういう作業をやり始めてはどうですか、それから枠組みや用語も学んでそこから自分の学問創造につなげてはどうですか、と問いかけるのが、この講義の狙いなのかな、とも思いました。ユーザーとしては、選択肢が増えたことは嬉しい悲鳴です。またゼミなどをしながらじっくり読ませて頂きます。