三宅秀道『新しい市場のつくりかた』

 三宅秀道さんから、これも随分前に本をいただきました。三宅さんは、うちの大学で中小企業論などの授業を担当していただいている東海大学(どこかかわられたのかな??)の先生ですが、学生が面白いというので、聴講させていただいたら、たしかに面白い。鍵語は、まちづくりやものづくり、だと思いますが、様々な経営者と会って、話して、文字通りの意味で、「社会踏査」した結果が提示されていました。この人は、絶対出てくる人だ、と思っていたのですが、はたして本が結実し、そして、これがまたすげぇ売れているみたいなんですね。検索してみると、たくさんのブログで面白いと書いてある。

新しい市場のつくりかた

新しい市場のつくりかた

アマゾンの紹介

戦いのフィールドを変えよう!
先の見えない日本企業。技術やスペック競争、値引き合戦で疲弊してしまっている。
ここから脱却するには、戦いのフィールドを新しく変えて、「新しい市場」をつくら
なければならない。
今までは「技術=ものづくり」に傾斜した、いわば「文明」重視の議論が多かった
が、ここでの提案は「文化」の創造にある。顧客のニーズは大切だが、それだけでは
成り立たない。問題を発見し、これまでにないライフスタイルを提案して、市場を作る。
そして、次世代のための幸せな社会を作っていく。その可能性は、さまざまな条件に
恵まれている大企業だけでなく、町の中小企業にもあふれている。
本書では、経営学の研究者として、主としてものづくりの現場を歩き、新市場の創
造に成功した企業を多く見てきた著者が、経営学をベースに新しいビジネスの戦い方、
企画発想のヒントを説いたものである。
古今東西の「余談」と取材で稼いだ事例をベースに、抽象的な経営学の議論をわか
りやすく伝える。話し口調の奔放な筆致、数字や横文字は入れない。350ページを超
えるボリュームながら、前提知識なしでも一気に読める面白さ。ビジネスのヒントが
詰まった、気鋭の経営学者による、日本発の新しい経営書がここにある。

ご自身のブログの目次

第1章 さよなら技術神話
ジャイロとクルーザー/ミシュランのガイドブックはなぜあるのか/資本主義と戦争と恋愛/ゾンバルトのキャッチボール/技術決定論の限界/愛妻家本田宗一郎の革新/なぜエジソンにウォシュレットが作れなかったのか/統合されるべき市場創造のプロセス


第2章 新しい「文化」を開発する
「しあわせ」のイメージ/人それぞれのしあわせの哲学/日本軍のライフスタイル開発/ライフネット生命が提唱するしあわせ/ウォシュレットの贅沢/当たり前になる過去の贅沢/しあわせだから、しあわせなだけ?


第3章 「問題」そのものを開発する
二人の靴のセールスマン/「問題」とはそもそも何か/商品を遺留品のように推理する/商品の価値は認識に依存する/価値とは存在ではなく、現象である/問題は発明の対象である/正しさを探しに行くな/問題発明の可能性はそこかしこにある


第4章 独自技術なんていらない
プールで水泳帽をかぶるわけ/文化英雄による教育/「文化振興財団的企業」をめざせ/生まれて育っていく「文化」/鉄砲職人が花火師に/問題開発できる立場


第5章 組織という病
いつか見た組織病/模倣していた問題設定/ただ「今日」のための組織/マッカーサーは来ない/方舟のない島/ワイガヤ世代が去った後に


第6章 「現場の本社主義」宣言
工業時代の始まりに起きたこと/均質素材と「計画性」/たい焼きの開発プロセス/フードコートをカイゼンする/ミラーが片方にしかないトラック/新コンセプトの水着をつくる/新入社員の大抜擢/身体が冷えてしまう水着/水着のリ・デザイン/生まれ変わったコンセプト/「寿司屋の出前」型企画開発組織/現場の本社主義/社風を変えたプロジェクト/アイデアを活かしやすい組織


第7章 価値のエコシステムをデザインせよ
ワイングラスの口は、なぜすぼまったか/岩手のかまどがケニアへ/「土俵の上の勝負」と「土俵づくりの勝負」/問題意識の「早期立ち上げ」/誰かが家元をやらなきゃ!/エコシステムの乗っ取り/文化人類学者を育てよう/摩天楼と通信カラオケ/小林一三のしあわせ構想/通勤生活の元祖/IBMとニューディール


第8章 ステータスと仲間をつくれ
下町で生まれた革のストラップ/信長の茶器の「物語性」/なぜベースボールが「野球」と呼ばれたか/われらの中のギャツビー/ハーレーダビットソンジャパンの躍進/下駄のようなバイクを再定義する/ハーレーをラグジュアリーにするには/大戸屋はなぜ一階にないのか/「外圧」を使いこなす/奥さんの公認をもらうために/「御社の商品はステータスシンボルたりえますか?」/呪術としてのラグジュアリー


第9章 ビジネスの外側に目を向けよ
会社と役所と大学でパイプをつくる/椅子が違えばいろいろ変わる/生活行動を支援するための椅子/人の「弱さ」の可能性/お金で買えない情報/産学連携の可能性


第10章 地域コミュニティにおける商品開発
読者への挑戦/情報獲得の合理・合目的性/会社は情報のクリーンルーム/知識はマネジメントできるか/「まもるっち」が生まれた町/世間とのすり合わせ/要素間のつじつまを合わせるまで/ユーザーの「振る舞い」を予測する/世間での「おさまり」/満足解の模索/「家元」の優位性/社会を変える大局観/子どもをネットの害から護る/新商品が開けるパンドラの箱/意図せざる知識獲得


終章 希望はどちらにあるか
明日のためのビジョンを持てるか/事前決定論の罠/問題開発者向きの人材/必然的偶然を起こすには/混沌の持つ可能性/「まだ名前がない存在」の貴重さ/最後で最初の希望
http://d.hatena.ne.jp/fuku33/20121008/1349686638

 内容的な紹介は、これで十分だと思います。
 三宅さんの本にも、三浦氏と共通するような、なんと言ったらいいか、ううう、健全な問題意識があって、とりあえず市場開発みたいなところから考えてみよう、と書いたところで気づいたけど、二人ともマーケティングの専門家なんだよね。たぶん。三浦氏のほうが、たぶんコピー化という点では、冴えているカンジはする。でも、じっくり足で考えているという点や、市場化というような学問的な理論構成では、三宅さんの議論も非常に刺激的だと思う。こんな分厚いものを、一気に読ませてしまう部分を、一つ一つコピー化する道を選ぶのか、それともアカデミックな体系化を目指すのか、楽しみにしています。本当に本をありがとうございました。


 まだ、澤井敦さんからいただいたバウマン本と山田信行さんからいただいた世界システム論本が残っています。