土井隆義『少年犯罪〈減少〉のパラドクス (若者の気分)』

 これも随分前になるのだが、土井隆義さんから本をいただいた。本をいただくたびに申し訳ない気持ちになる。本当に恐縮しています。ありがとうございました。私のゼミにも、土井さんの読者はかなりいるし、卒論時などは引っ張りだこの本である。十分に活用させていただきます。

少年犯罪〈減少〉のパラドクス (若者の気分)

少年犯罪〈減少〉のパラドクス (若者の気分)

 少年による凶悪犯罪は減っている―にもかかわらず「少年犯罪の凶悪化」ばかり語られるのはなぜなのか。
 若者にとって厳しい社会経済状況が続くなかで、暴動騒ぎどころか小さな暴力事件ですら減っているのはなぜなのか。
その謎を解明し、これまでの犯罪研究の空白地帯に踏み込む。


1 経済成長と貧困(少年犯罪の長期的動向;衰退する「煽りの文化」)
2 人間関係と自由(低下する共同体の抑圧力;非行グループの弱体化)
3 オンリーワンの彼岸(「個性的な自分」への焦燥感;崩壊した非行文化のゆくえ)
4 幸福感のリアル(社会的排除からの排除;自己承認願望の二重化)


 少年による凶悪犯罪は減っている――にもかかわらず「少年犯罪の凶悪化」が語られるのはなぜなのか.若者層にとって厳しい社会経済状況が続くなかで,暴動騒ぎどころか小さな暴力事件ですら減っているのはなぜなのか.パラドクスにもみえる謎を解き明かし,これまでの犯罪研究の空白地帯に踏み込む試み!
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4000284568.html

 本書は、岩波書店から出た十巻本のシリーズの一冊である。知り合いの執筆者もいるが、なかでも中西新太郎さんの名前が眼にとまる。私が学部のぺーぺーだった頃、マルクス研究者としてブイブイいわしていた院生だった。そちらの方面でも重厚な成果をあげ、さらに現代社会論や若者論で問題提起を行ってきた。社会学の青少年研究者とのコラボが生まれたことはとても異議深いことだと思われた。
 土井さんの著作は、非行集団論、個性化論などの成果を踏まえながら、格差社会の少年犯罪を省察する一冊である。社会的排除の重層化、自己承認願望の重層化というところから、生きづらさと幸福について論じた本であることは、目次を見ても明らかだろう。これまで積み重ねてきた作品性に新しい一歩を加えるものであり、また犯罪社会学的にも貢献度の高いものになっているようだ。
 土井さんの著作はどれもズシンと来るような問題提起を読者に突きつけ、切実な省察へと誘うもので、それが故に学生さんたちの人気も高い。このシリーズのなかでも、また若者論全体のなかでも、データー派というよりは、筆力派というのが適切な立ち位置だと思う。そうした立論が、重厚な調査に支えられたものであることを、最近知った。若い研究者で、土井さんのチームで、ある施設の全数調査をするプロジェクトに加わっているのだという。どんな調査内容かは、聞くことはできなかったが、スゴイものだなぁ、と改めて思った。