フラガールを観る

 何度目かの脱稿をしたわけだが、今回はすみずみまでこのまま出してもいいように仕上げた。で、ともかく頭を空っぽにしようと思い、ジムに行って、猛烈な勢いで泳いだ。いつもは低速コースでぽったんぽったん泳ぐんだけど、今日は最速コースに人がいなかったので、そこで全速力で泳いだ。でも、1500メートル泳ぐのに三十五分以上かかった。そのあとは、まあビデオでも観ましょうかと、蛭子さん状態であります。なんか心が洗われる(・∀・)イイ!!表情がみたいと思った。まず思い浮かんだのは、『トンマッコルへようこそ』で、吉祥寺のガード下新星堂にでかいポスターが貼ってあり、カン・ヘジョンの表情が実にいい。HPですでにチェック済みだった。トップの写真もいいが、銃を突きつけられている表情もじつにいいいものがある。

トンマッコルへようこそ [DVD]

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「トンマッコルへようこそ」オリジナル・サウンドトラック

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 しかし、ビデオ屋に行ったら、『フラガール』があったので、そちらをまず観ることにした。蒼井優の表情七変化がいいとみんな言う。なんか戸川純のできそこないっぽい印象があったが、でこと鼻と人柱のありようは、かなりツボなものがあり、今日のニーズに合致していると思った。今更この映画について、なんじゃかんじゃ理屈を言うのは愚劣なことだろう。一言だけ言うならば、しずちゃんは反則だろう。顔でかいし。いつものまんまやんけ。でもさ、突然怒アップになるのよ。肝心の泣かせどころみたいなところで、そうするとさ、はははははははと笑いころげてしまうの。すごすぎるよこれは。臭み抜きとかそういうもんでもないよな。もっとぶっとんでいる。
フラガール オリジナル・サウンドトラック

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 もう一言だけ言うと・・・と思ったら、ともかくいろんなものを列挙していきたくなる。斜陽産業の街で勁く生きる人たち、町おこしのサクセスストーリー、地方に骨を埋め、いまだに指導を続けている先生の話。友達に誘われて、学校さぼってフラガール。それを都落ちの借金まみれの先生@元SKDが指導する。最初はみんなへたくそ。しずちゃんなんか、股わり失敗してパンツもろみせだしぃ。対立するが、次第にうち解けて、太陽に向かってダッシュ!円陣つくってエイエイオー!ファイとぉー、一発。親に反対されて家出、かたやクビになった親父の前でうかれて寺内貫太郎一家どころの騒ぎじゃないDV状態の親友。その親友は遠い北海道に行っちゃう。父ちゃんの新しい職場のある夕張へ。で、見送る。トラックを走って追いかけて、「じゃあな!」連呼。これがもうおなかいっぱいというくらいにリフレインで、最後は橋をトラックがわたってゆくところへ、「じゃあな!」。もう気分はおにゃんこくらぶだろ。あれは「じゃあね」だっけ?で、ハワイアンセンターなんて炭坑労働者の敵、いびりたおすんじゃという怨念のシャワーだったのに、フラガールの熱意にほだされ、お人好しみんなでハワイアンセンター応援隊状態。しかも、なんとストーブかきあつめて、南洋の植物を枯らさないようにした。みんなで盛り上げる常磐ハワイ。全国巡業では、ハワイアンの衣装を着けたフラガールが可憐に照れてみせる。顔ひょこっとだして、きゃあきゃあゆってみせるところは、小技がさえわたっていた。他にも「タコグラフ」とか、細部にまで配慮がゆきとどいてますです。突然の炭鉱落盤事故。でも、親の死に目にも会えないのが芸人魂。みんな帰ろうというのに、フラガールしずちゃんが「あたし踊る」と志願。帰ったらやっぱりとうちゃん氏んでてさ、「でていけ」といわれちゃって、先生は「あたしが命令したんだよ」と言い放ち、非難を一身に受けて、黙って去ろうとする。先生をみんなが駅へ迎えに行く。「じゃあな!」かと思ったラサ、先生降りてくるんだよ。走り出した電車止めてさ。運転士羽交い締めにしたんぢゃねぇかというかんじで、もうキャッシー・ベイツも失禁するくらいの怒迫力な松雪泰子。こういう役ばっかりですやん。最後は華麗に踊るフラガール。メガネの母ちゃんは、ギャグバッカかと思ったら、そうじゃなくってよとばかり。でもさ、胸にパット。息子にインチキといわれ、サービスと返す。で、晴れ舞台はなかなかのもと、と思ったら、ガキが「かあちゃん」とかけ声。めちゃくちゃと思ったら、かあちゃんは余裕綽々威風堂々。じつにわわしい。最後は、蒼井優が笑顔で踊る。そして、喧嘩していた母も赦す。
 で、思いついた言葉は、・・・「鬼のようにかっこわるい」。実にかっこわるい。逐一がかっこわるい。しかーし、松雪のセリフに「かっこわるい」というのがあったし、これは作為なんだろうね。井筒和幸監督は「べた」と言っていた。べたはべただけど、ともかくかっこわるいわけ。かっこわるいけどさ、そのかっこわるいのが、映像のマジックでキラキラと光るんだな。しずちゃんのでかい顔と図体も、志賀の悪役面も、ツルハシもって893追い払う弁護士のくずも、DVでぼこられた親友も、シャルウィダンスとフラッシュダンス足して割ったような練習風景もキラキラ光る。これがたとえば金ぱちの主演した「俺たちの交響楽」なんかとちがうところ。そして、それらが最後の蒼井優の「尻ふりおどり」のなかに輝きを増して結晶化される。そして、蒼井優の団子鼻な顔が実に素敵にきらきらと輝くように歌舞伎まくるんだ。蒼井優の演技、蒼井優の存在感じゃなきゃ表現できないものだろうけど、それ以上に蒼井優の顔じゃなきゃだめだったんだろ、これは。たとえば、長澤まさみでも、沢尻エリカでも、上野樹里でも、堀北真由でも、うーん、堀北はぼでーはよさそうだけどさ、じゃあ類家明日香でいいかというとそうでもないよな。それだとバックダンサーズしずちゃんみまん。それはともかく、凶暴なテクニックと大胆なきゃすちんぐで、べたがネタというか、作為というか、そういうことになってますよぉ、というようなことなんじゃないのかな。
 このラストは、と言うか全編そうなのかもしれないけどさ、ものすごい荒技だと思う。しずちゃんだけでなく、蒼井優の鼻も、お竜さんの気っ風も、それ以外のなにもかも反則技なのかもしれない。『ライフイズビューティフル』みたいに、泣かないぞと思ってみていた客を、最後に映像の化学を炸裂させて泣かせ、そして最後の最後にガキに「僕たち勝ったんだ(won)」と、アカンベーをするような意地悪なところ(最近英語の字幕で気づいたんだけどさ)もなく、メッセージが説明的になることもなく、踊りの映像としてシュタッと提示され、そして、そして、そしてだなぁ、蒼井優の笑顔が心地よい残像となってのこったのであります。