『どくとるマンボウ青春記』

 書名が出てきたところで触れておきたい。北杜夫といえば、斎藤茂吉の子どもであり、茂吉ゆずりかとうかはわからないけれども、独特の言語感覚でことばを紡ぐ作家だなぁと、はじめて『幽霊』を読んだ時、作品をわかったとは言えないのだが、おぼろげに思った。ガキの頃だし、そんなに愛読する本にならなかったが、そのあとに読んだ『どくとるマンボウ青春記』は愛読書になった。大学で寮生活をしていたこともあるし、私たちのいた部屋は、「旧制高校的な雰囲気がある」とよく言われていた部屋で、飲んだくれたり、語ったり、歌ったり、めっちゃ楽しいところだった。議論をしてけんか腰になったこともあるし、酒を飲み過ぎた後輩をリヤカーで病院に運んだりした。合コンで、恥ずかしい思いをしたこともあるし、楽しいこともあった。そんな生活のバイブルとも言うべきが、『どくとるマンボウ青春期』である。旧制高校である松本高校での体験を書いたのが、この本で、ヘンな先生や級友などのことが、書いてあり、しかし北杜夫の文章は、時には感傷なども交えつつ、また抱腹絶倒のエピソードを多数交え、かつ鑑賞に堪えるというか、非常に品格のある作品世界が展開されている。

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

 これを読んで、「旧制高校的なもの」に憧れをもった。そのころ、エッセイなどで、「旧制高校の教師にでもなろうと思った」と書いている人をよく見かけたが、そういう人の文章にはほとんど例外なく、惹きつけられた。サークル、ゼミ、大学院などでも、「たまり場的なもの」が好きだった。だから、最初の職場が教養教育を行う部局であった時、うれしいものがあった。教養部の解体で、文学部に配置換えになったが、二つ目の職場としてはふたたびリベラルアーツ教育を理念とする大学に職を得た。もちろん職場は偶然なんだけど。いずれの職場でも、「たまり場的なもの」に固執してきたように思う。