社会学が拓く人間科学の地平

社会学が拓く人間科学の地平―人間を考える学問のかたち

社会学が拓く人間科学の地平―人間を考える学問のかたち

 家に帰ると海野和之氏から本が届いていた。海野氏とは、経済社会学会の大会で神戸大学に行き、たまたまバスのなかでお会いし、以下にも同業者とお互いに思い、どうやって会場に行くんですかみたいな話になり、それ以来いろいろお話をするようになった。おそらくラザースフェルトの訳者というのが、一番通りがよいのではないかと思うが、それは私の専門領域のバイアスがかかった見方かもしれない。公共政策、経済社会学社会心理学など多様な分野を横断する研究をされている。近々『公の鳥瞰』と題される単著を、同じ出版社から公刊される予定という。
 その海野氏が編者となり、監修者である濱口晴彦氏の定年退職論集として出版されたのが本書である。メディア、地域、都市、福祉、労働、ジェンダーなど多様な分野をカバーした本であり、海野氏なりのこだわりが随所にうかがえるような気がした。海野氏は、公共政策や政策科学への志向を一方でもちつつ、他方で「真木悠介的なもの」「見田宗介的なもの」へのこだわりをもった人である。私と同世代であり、要するに『気流の鳴る音』や「まなざしの地獄」を読み、一度は真木/見田主義者であった者であり、否定のしようもない脳髄に至るような疵痕を見せあって、お互いに自嘲的な笑いを浮かべつつ、なお萌えと思う自分をおさえられないといったコミュニケーションをした記憶がある。章立てを腑分けしている「交わりが育む希望」「可能性を呼び覚ます支援」「文化の散らす火花」「ジャーナリズムを見通す視線」「作用し合う意識と知識」「日本の古層と深層」「大衆長寿という時代」といった書物の柱にそうした「痕跡」を確認することもできよう。
 骨太でオーソドックスな理論の上に、コクのある重厚な実証とわかりやすい政策への意思などがそこに貫かれているように思った。生活史研究会でご一緒させていただいている高田知和氏もそこに参加し、自治体史誌という興味深い視点について、玄人受けのする重厚な論考を寄せられてることが目についた。出版をお慶びしたい。